スペシャリストに憧れて…ゲームで表現される「本職」の魅力
フェアな競争の中で、突出した個性を手中にする快感
みなさんは武器やキャラクターなどの選択肢がゲーム中で与えられたとき、どのように選び取るタイプでしょうか。
格闘ゲームのように多くの選択肢からたった一人を選ぶ場合、RPGのように選択肢からパーティを編成する場合など、選べる数によっても異なるかもしれませんが、
やっぱり「他の武器/キャラにはない要素」とか、「走行スピードが一番高い」などの「いちばん」の要素、というのは意識に上りやすいでしょう。
なかなか現実に「プロフェッショナル」とか「スペシャリスト」と呼べる人材は見つからないものですが、
ゲームの中だとそういう存在は結構あって、扱いを上手くやれば飛び切りに輝かせることが可能(なはず)。
プレイヤーが一掴みにしやすいゲームデザインのためにも、ひとつひとつの要素に個性を付けてあげるのは大切なことかと思います。
という訳で、この記事ではゲームに華を添える「スペシャリスト」表現とそれを支える技術について、気ままにまとめてみたいと思います。
DQシリーズ - パーティの自由化とスペシャリスト
ドラゴンクエストシリーズの第一作は、今でいう「パーティ」が存在せず、たった一人の冒険でした。
勇者ロトの末裔である主人公はロンダルキアの大地を旅し、各地で武器や防具を買い揃えて、自らの魔法で傷を癒す孤高の勇者だったのです。
「ドラクエⅠ」の1年後に発売したドラゴンクエストⅡになると、3人のパーティが組めるようになり、
主人公であるローレシアの王子は「魔法を使わない」キャラクターとしてデザインされました。
のちに仲間になるサマルトリアの王子は魔法剣士、ムーンブルクの王女は魔法使いとして個性付けされており、
この段階ではまだ「物理/魔法」の一つの軸だけでキャラクターをデザインしています。
ドラゴンクエストⅢでは、ルイーダの酒場で仲間を集めるというシステムにより、プレイヤーの意思でパーティを編成できるようになりました。
ここに来て、最大の自由性を持たせるための工夫として、魔法の中でも攻撃志向のものと回復/サポート志向のもの、
物理攻撃でも剣を使うものと拳(身体)を使うものという差別化が生まれ、
魔法使い、僧侶、戦士、武闘家といったそれぞれのスペシャリストが生まれていきます。
またプレイヤーがパーティメンバーを自由に決められるようになったことで、
商人や遊び人といった、戦闘が本職ではないキャラクターも登場出来るようになりました。
この「職業」概念は、いまもドラクエシリーズを支える柱の一つであり、代名詞的なシステムにもなっています。
これは、技術進歩によって選択肢が多様なゲームを作れるようになるにつれ、様々な方面に特化したスペシャリストが登場していったという風に説明ができます。
ドラクエは、それぞれの「キャラクター」が、ゲームの中に存在する武器や魔法といった「要素」の代弁者となって、
プレイヤーにとって非常に掴みやすい、ルールと世界観が一体化したゲームであると言えます。
スペシャリストの存在が、ゲームにおいて大切であることの一例といえましょう。
FEシリーズ - 特定の武器に特化したクラス
たくさんの種類の武器を使った闘いを描くゲーム、たとえばウォーシミュレーションから派生したSRPGのシリーズ「ファイアーエムブレム」でもスペシャリストの魅力を楽しむことが出来ます。
同シリーズは「剣」「槍」「斧」という基本的な直接攻撃武器プラス、間接攻撃ができる「弓」「魔法」そして回復を主とする「杖」が基本要素。
加えて、タイトルによっては魔法が細分化されていたり、他の武器が加わってきます。
ファイアーエムブレムシリーズでは毎作、この分類をクラス(職業のようなもの)に紐付けてまとめた「兵種紹介」がOPムービーの後に収録されています。
上記はFEシリーズ躍進の一歩となったSFC「紋章の謎」のオープニングで、2:50から兵種紹介が始まります。
クラスの中には「ソシアルナイト」のように剣と槍という複数の武器種を扱えるオールマイティなものと、
「剣士」や「アーチャー」といった、特定の武器種に特化したものがあります。
また、「ロード」は剣しか扱えないものの、主人公(王族)を表すクラスであるため、
剣のスペシャリストというよりは、村の訪問や敵城の制圧など、少々特殊な役割を担うことになります。
おまけにも見えるこのムービーですが、多様なスペシャリストが代わる代わる登場するのを楽しめるものになっており、当意即妙の説明文が付いています。(ごく単純化された説明であることはもちろんなのですが…。)
弓のスペシャリストである「スナイパー」の紹介文は、「弓を扱うことにかけては最強のユニットである」「離れた敵への攻撃では右に出るものはいない」など、
いちいちスペシャリスト感の高い、「そそる」書き方がなされています。
「紋章の謎」は紹介のテキスト量が多いのですが、以降のシリーズでは減っていて、
最新3DSの「覚醒」「if」では、兵種紹介文はだいぶあっさりしたものになっていて、ちょっぴり残念だったりします。
FE覚醒 - 軍師ルフレの「本職じゃない」見せ方
最新タイトルである「覚醒」「if」においては、アニメーションを効果的に使って「本職」と「それ以外」をプレイヤーが直観的に掴めるようになっています。
例えば、「ファイアーエムブレム覚醒」のマイユニット(ルフレ)。
スマブラ for 3DS/WiiUではサンダーソードと魔導書を駆使して闘う、剣技にプラスアルファの要素を持った新しい方向性のキャラとして描かれていますが、
原作ではけっこう「構えがへっぴり腰」なのが印象的だったりします。
ルフレが剣を使っている既存の動画がなかなか見つからず、「剣縛り」でプレイしている方の実況動画をお借りしました。
上記動画の6:37のところで、マイユニット(動画中ではナナシ)の戦闘シーンを見ることが出来ます。
横にいる剣士・ロンクーと比較してみると違いは歴然で、構えに落ち着きがなく、敵に相対して若干そわそわしているようにも見えますね。
ルフレは「戦術師」という戦闘指揮を専門とするクラスなので(作中にその描写はあまりありませんが)、剣を扱うこと、もっと言えば闘うことの本職ではありません。
イマイチな剣の「構え」によって、「ほかに闘うことの得意な者がおり、自分は戦略を立てるのが本職」という、軍の中での役割を表現していると考えられます。
(むろん、育成次第では十分肉弾戦に耐えるユニットになるのですが。)
一方、同じマイユニットという立場ではありますが、
DLCとしてスマブラに参戦が決定した「ファイアーエムブレムif」の主人公・カムイの剣技は鮮やかです。
上記動画の「下級職」のはじめ、ダークプリンスの紹介で見ることができます。
こちらは「夜刀神」という物語の鍵となる剣を扱える唯一のユニットなので、剣技に随一のセンスを感じるようになっています。
細かなアニメーションの表現が可能になったことで、ユニットの立場や経験値を、パラメータを離れたところで醸せるようになったという一例です。
スペシャリストとそうでないキャラクターとを、映像表現によって区別しているということですね。
TRINE - 3人の主人公と、それぞれの役割
「TRINE」シリーズは、フィンランドの独立ゲームデベロッパーであるFrozenbyteによる「ファンタジーアクション」であり、
美麗なグラフィックと、おとぎ話のような幻想世界での冒険、
そして3人の主人公を入れ替えながら、それぞれの力を駆使して攻略する試行錯誤がウリのゲームです。
わたしはWiiUで日本向けにローカライズされ発売された「トライン2 三つの力と不可思議の森」をプレイしました。
これは「2」を冠しているものの、実際にはTRINEシリーズの第一作をTRINE2のエンジンで再構成した「TRINE Enchanted Edition」と同内容。
TRINE Enchanted Editionは、WiiUのほかLinux、Mac、PC、PS4上で遊ぶことが出来ます。
戦闘のスペシャリスト、騎士ポンティアスの演出
同作は魔法使いアマデウス、騎士ポンティアス、盗賊ゾヤという3人のプレイヤーを任意のタイミングで切り替えて使い分けることがゲームデザインの肝であり、
謎解き、戦闘、移動などの場面に応じてそれぞれにしか出来ないアクションを持っています。
わたしがWiiU版の公式サイトを読んだとき、印象に残ったのは騎士ポンティアスの説明文。
「敵の襲来時はポンティアスの本領発揮」「ポンティアスならではのパワフルな攻撃」「盾さばきを極めた結果、風にのる奥義まで習得」といった文言によって、
他に肉弾戦の得意なプレイアブルキャラしか存在しないこのゲームにおいても、彼が優れた騎士であることを演出することに成功しています。
ゲームデザインにプラスし、テキストの持つ力によって、プレイヤーを気持ちよくさせることが出来ている例かと思います。
TRINEシリーズは「TRINE3 The Artifacts of Power」でついに3D化。
美麗なグラフィックはそのままに、3Dのフィールドで発見と爽快感に満ちた冒険を繰り広げています。
TRINE3はPCの他、PS4向けに発売され、現在はPlaystation Store Europe & North Americaでのみ購入可能となっています。
いかにして説得力を持たせるかがカギ
ある道における最高のプロフェッショナルとして描かれたキャラクターを、思いのままに操れるというのは快感です。
その真実性を演出するため、ゲームデザイン、グラフィック、テキストを駆使して綿密な設計を行っていることを書いてみました。
何かにつけプレイヤーを「褒める」文化と同様、ゲーム独自のキャッチ―さや中毒性を獲得する手段として、
「プロフェッショナルな存在」を登場させ、かつ過不足なくその専門性を演出することは重要なように思います。
おまけ - 漫画で表現される「本職」の魅力
先日ご紹介した「ガンバ! Fly high」は、体操競技を題材にした漫画作品。
実際に6種目ある体操競技をすべて描いていますが、主人公が所属する平成学園は「スペシャリスト軍団」であり、
それぞれの部員が見せる、得意競技における圧倒的な演技を存分に楽しむことが出来る作品となっています。
この記事に共感できるような方であれば好きなはず。是非手に取ってみて下さい。