Splatoon二次創作『緑チームシリーズ』に見る、ブキと人格の融合
優劣のないブキに、屈託のないキャラたちを
pixivで連載されている、Splatoonの二次創作漫画『緑チームシリーズ』を読みました。
僭越ながら、わたしなりの感想と考察を展開したく思います。
『緑チームシリーズ』のご紹介
作者であるNANAさんの描いた一枚の設定イラストから発展したこの漫画シリーズは、pixivの風土と見事に調和して、
もっとも閲覧数の多い作品は16万以上のユーザーに読まれています。
Splatoonはナワバリバトルやガチマッチといったオンライン対戦や、一人用ヒーローモードのステージを遊ぶたび、
プレイヤーキャラクター(インクリング)の髪色が自動的に変わり、射出するインクの色も合わせて変化することが特徴です。
本作では、4VS4で戦うインターネット対戦を模し、緑チームの4人組をメインキャストとして据えています。(詳しくは後述。)
漫画になったSplatoonが獲得したもの
ゲームの中の姿とはまた違って、漫画で表現されるイカたちの生き生きとしている様が印象的でした。
この漫画には、原作ゲームにはない特徴がいくつか見受けられます。
- インクリングの明確なキャラクター化
- コマを割って描写されるシーンとストーリー
- カタルシスを感じられる展開と、心の描写
- 作者さんが持てる力を注いでゲームを漫画化したことによる作風の温かみ
ゲームから漫画へというメディア由来のものもあれば、ひとりの方が作られた作品であることに根差しているものもあります。
先日の記事で、ゲームから二次創作をすることの意義について考察してみましたが、
漫画という媒体を使えば、同じモチーフから引き出せるものの質も随分異なってくるので、
良い創作が生まれるたび、もとの素材が持つポテンシャルが引き出されるということを発見できました。
ファンの方々が、自分の得意な表現方法に移し替えてみることで、
誰も見たことがなく、知らなかった表現が急にみんなのものになる、という事が起こるようです。
実力伯仲のブキ群がもたらした恩恵
Splatoonのキャラクター育成・カスタマイズは主に以下の要素から成ります。
要素 | 説明 |
---|---|
ランク | インターネット対戦を遊ぶたびに獲得できるポイントを溜め、1~50のランクを上げていく |
ウデマエ | ランク10になると解禁の「ガチマッチ」の結果で上下 もっとも信頼されるプレイランク |
ブキ | シューター、ローラー、チャージャー他、様々なジャンルのブキから選択 ランクを上げるとお店で購入解禁 |
ギア | アタマ、フク、クツの3種類 「ギアパワー」という特殊効果を付けることと、見た目のカスタマイズが目的 |
緑チームシリーズでは、この中の「ブキ」を非常に強調していて、
わかばシューターを操る「ワカバちゃん」、ジェットスイーパーを操る「スイーパーさん」のように、ブキの名前をそのままキャラクターの呼び名に用いています。
Splatoonはブキの多彩さと身近さもトレードマークであり、水鉄砲を模した「スプラシューター」や、任天堂の往年の射撃玩具を模した「N-ZAP85」、
巨大なペンキ塗りのような「スプラローラー」、美術の授業でおなじみ「ヒッセン」や消火器のような「ハイドラント」など、一つ一つの意匠のクオリティが高いです。
また、ゲームのお約束ですが、それぞれのブキを選び取ったプレイヤーに対して「なんとなくの印象」が付随するものです。
それを魅力的なキャラクターという形で漫画表現へ写し取った緑チームシリーズは、Splatoonの持つ財産を見事に生かしていると言えましょう。
また、さらなる創作上のポイントは、武器に明確な序列がある多くのRPGと違い、
プレイヤー同士の競争であるFPSやTPSには武器間の強弱が生まれることが望ましくなく、Splatoonもその例に漏れないという点です。
つまり、ブキとキャラクターを一意に対応させても、後々問題が起こるという可能性がとても低いのです。
ワカバちゃんが手にする「わかばシューター」などは、プレイヤーがゲームを開始した時点で持っているブキということもあり、
扱いやすさと塗り効率の高さ(メインモードであるナワバリバトルにおいて特に重要)が際立ちますが、高いウデマエのプレイヤーでも十分に扱いがいのあるブキとして作られています。
もっとも対極にあると言えるのは、ちょっと出自が特殊な例になりますが、
2ちゃんねるで投稿されていた「ブーンがアルファベットを武器に戦うようです」という作品の武器群のようなものでしょう。
この作品にはA~Zの26種類の武器が存在し、AからZに行くほど実力が高いという、明確な格付けがある世界での三国戦争を描いています。
この作品のような武器の位置づけをすると、一人のキャラクターが一つの武器を使い続けるというのは「成長の限界をそこで迎えた」という示唆でもあり、同時に安定した個性になります。
一方、主人公はじめ、若々しいルーキーたちや、第一線で戦う歴戦の勇者が使う武器のレベルを徐々に上げていく事にワクワクしながら読み進められるのが魅力です。
どちらの構造もゲーム的な魅力に満ちていますし、物語を作る上で一長一短あると言えるでしょう。
大好きな作品の、誰も知らない一面を
こういうクリエイティビティを見せられてしまうと、ブログを書くことも遠回しでじれったくなります。
先日の記事で、ゲーム体験そのものと二次創作との距離感について考察しましたが、
そのちがい以上に、「作られた作品そのものの尊さ」と、「それを単に語ること」には隔たりがあります。
わたしもショートストーリーを作るという形でSplatoonの新しい味わいを模索しようと書き始めてしばらく経ちますが、
こういう作品を作る方がいるということを励みに、あきらめず活動を続けていきたいものですね。