Splatoonはなぜこのタイトルか 世界観との結びつきから説明を試みる
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「イカ」は「squid」 じゃあSplatoonって何?
Splatoonファンの方であれば、プレイヤーでない方から「どうしてSplatoonはこの名前なのか?」と聞かれた経験が一度はおありではないでしょうか。
そんな時の説明に役立つ公式情報として、以下の2つが知られています。
- もともと「イカスキッズ」という名前が候補に挙がっていたこと
- Splatoonは、「Splat(びちゃっ、べちゃっという擬音)」と「platoon(軍隊、小隊)」を組み合わせた造語であること
ここまでは経緯と由来の話。色んなところで語られていますので、わざわざ記事にするまでもないことです。
しかし一歩踏み込んで、いま当たり前に呼んでいる「Splatoon」というタイトルが、どうしてこうまでしっくり来るのかということについては議論するのはあまり例を見ないのではないかな、と思います。
この記事では、「ゲームの世界観」と「タイトル」の結びつきという観点から、「どうしてSplatoonというタイトルが『良い』のか」説明を試みたいと思います。
任天堂ゲームタイトルとしては珍しい構造
ほかの任天堂タイトルと比較してみると、「Splatoon」というタイトルの付け方はけっこう異質です。
一部、例を挙げてみましょう。
タイトル | 構造 |
---|---|
スーパーマリオ | 主人公の名前+修飾 |
星のカービィ | 主人公の名前+修飾 |
ゼルダの伝説 | 囚われの姫の名前+修飾 |
メトロイド | 破壊目標の名前 |
スターフォックス | 主人公が率いるチームの名前 |
Splatoonがこれらと異質と言えるのには、大きく二つの根拠があります。
- キャラクターの名前が入っていないこと
- 「Splatoon(スプラトゥーン)」という言葉が作中にまったく出てこないこと
(ちょっと似た性質のゲームタイトルとして「どうぶつの森」もありますね。)
ひとつずつ詳述していきましょう。
絶対的主人公の不在
マリオ、リンク、カービィ、サムスといった中心的なキャラクターが存在せず、Splatoonはイカ世界の多様な主体をそのまま描き出しています。
しいて言えば主人公は「New!カラストンビ部隊の3号」ですが…
- プレイヤーの視点によって「誰が3号になるか」が異なるし、名前も異なる
- 彼女(彼)の存在はイカ世界のほとんど誰にも知られていない
- 3号が活躍するヒーローモードはメインではないゲームモードである
以上のことからあまり強いパーソナリティを持っていません。(そこが良いんですけどね)
ですので、「タイトルに載せるほど重要で、誰が見ても納得する中心的キャラクター」が存在しないのが第一の理由です。
Splatoonという言葉が持つ意味は何か
作中に全然出てこない言葉をタイトルに据えるというのは、わりに珍しい決断であると言えましょう。
唯一あるとすれば、2014 E3PVの「Splatoon!」コールぐらいですが、このアレンジもプロモーション用のものであり作中には登場しません。
(わざわざゲームサイズでは「Splatoon!」コールを削除したのも、ちょっと示唆的ですね。)
商標としての機能 - チームスポーツであることを暗に伝える
Splatoonは、「Splat(びちゃっ、べちゃっという擬音)」と「platoon(軍隊、小隊)」を組み合わせた造語である
と先に述べました。
Splatoonという言葉は無理に和訳すると「ぬりぬり小隊」などになるかなと思いますが、語源から分かるようにその言葉が指す具象は「集団」です。
「あなた一人」でなく「部隊」が主役とすることで、チームプレイが大事なこのゲームにぴったり合ったイメージを伝えることに成功しています。
世界観を規定する機能
Splatoonでは「アロメ」「アイロニック」「クラーゲス」といったブランドがギアのメーカーとして登場します。
また、様々なチームの存在を示唆するグラフィティが街の至る所に張り付けられています。
イカ世界は固有名詞の宝庫であり、色んな主体(企業や集団)が自分たちに名前を付けることでブランディングを試みているようです。
そんな世界の中ですから、ナワバリバトル界を代表するチームの名称として「スプラトゥーン」が登場しても良さそうなものですが、「俺たちがスプラトゥーンだ!」と名乗るチームは作中には出てきません。
「チームに名前を付けると言う概念がこのゲーム内に無いのだから当然だ」と思われるかもしれませんが、
仮にSplatoonの続編が発売して、様々な名前をもったコンピュータチーム相手の4VS4が楽しめるようなストーリーモードが実装されたとしても、
ラスボス格のチームに対して「スプラトゥーン」という名前を付けるというような事は、たぶんやらないだろうと思います。(違和感ありますよね)
このように、「Splatoon」という言葉は作中には一向に出てこないにも関わらず、タイトルというもっとも重要な座を占めています。
一体「スプラトゥーン」とは誰が作った言葉で、どうしてゲームの世界の中にその言葉は出てこないのでしょうか?
その答えは、人類(わたしたち)の世界とイカ世界の関係性を紐解けばわかるというのが、この記事の主張です。
イカ世界はイカにして生まれたか
Splatoonの世界がどのように成立したかは、ミステリーファイルを読むとある程度推測することが可能であり、ファンの間で議論が起こることもあります。
ひとまず、この後の説明に最低限必要な情報を引用してみましょう。
「海面上昇により地上の生物は息絶え 誰もいなくなった大地に イカの始祖はその10本足を踏み入れる」(ミステリーファイル10)
「学会で 海面上昇の危機を叫ぶも 誰も信じようとはしない このままでは 人類の文明はすべて 深き海の底に 沈むであろうに」(ミステリーファイル25)
以上の記述から、イカたちの文明はわれわれ人類の文明と地続きの時間軸上にあるということがわかりますし、
ほかの情報も総合すると、人類の絶滅から最低でも1万2千年は先の世界を描いた作品だということまでわかります。
ところが、そうして生まれた遥か未来のイカ世界もまた、何者かによって観察されているような描写が節々に現れています。
ヒーローモードで手に入るミステリーファイルを作ったり、わたしたちの世界に情報を届けたりしている「イカ研究所」の存在ですね。(両者の同一性はさておき…)
彼らが何者かは定かではありませんが、こんな存在であると推測されます。
- イカたちとは別の文明をもち、高い知性をもっている
- 研究者たちの存在はイカたちに知られていない
- 研究者たちからイカ世界に干渉することはない(ミステリーファイルを投げ込むことくらい)
彼らの正体についてはまた別の議論のテーマになりそうなくらいですが、本題ではありませんので、ざっと仮説を列挙するに留めておきます。
- イカ研究者は現代に生きながら未来を覗く術を持っている存在である
- イカ研究者は絶滅したと思われた人類の子孫で、宇宙かどこかからイカの生態を観察する存在である
- イカ研究者はイカの文明と同時代の、べつの文明に属する存在である
そしてわたしたちは、WiiUゲームパッドを手に取って「Splatoon」を遊ぶとき、イカ研究所の持つ「のぞき窓」を間借りして、外からこの世界を眺めているのでしょう。
ちょっと話が逸れましたが、いよいよタイトルの意味につながる肝心の仮説を述べたいと思います。
スプラトゥーン=研究者がイカの集団に付けた「呼び名」
イカ研究者たちは、フシギな生態をもつイカたちに「心を奪われてしまった」ようです。
そこで彼らは、同種族のなかでナワバリバトルという激しい戦いを繰り返すこのユニークなイカたちに、ふさわしい名前を付けようと熟慮しました。
そんな研究の過程で生まれたのが、「Splatoon」という、イカの集団を対象とした呼び名なのではないでしょうか。
別の言い方をすれば、民族学的な見地から生まれた呼びかた、と説明する事も出来ます。
こういう風に解釈すると、ゲームのなかで「Splatoon」という言葉が一切登場しないことが、なかなか綺麗に説明できるのです。
日々暮らしているイカたち自身は、自分たちが外から観察・考察され「Splatoon」というカテゴリに入れられていることを知る由もないのですから、そこにはわたしたちの言葉である「Splatoon」はもちろん登場しません。
ちょうど、狩猟をして暮らすある民族が、自分たちがべつの時代からの視点では「狩猟民族」と呼ばれることを知らず、必然口にすることもないようなものです。
英語版Splatoonには「Splatoon」が作中に登場する!?
ここまでの考察は、日本版のSplatoonをベースに展開してきました。読者のほとんども日本版をお持ちだと思いますので、「作中にSplatoonという言葉が出てこない」という点については異論がなかったでしょう。
しかし、英語版Splatoonには「Splatoon」が作中に登場するらしいのです…!(何てこった!)
こちらの動画を見ると、Cap'n Cattlefish(アタリメ司令)が「Squidbeak Splatoon」と口にしていますね。
「squidbeak」とは「squid/beak」と分けて訳せば「イカのくちばし」、プレイヤーにはおなじみの「カラストンビ」のことです。
ですから"Squidbeak Splatoon"は、「カラストンビ部隊」のことなのですね。
platoonがもつ部隊、小隊という意味を考慮すれば、日本のかたもこの英訳にはしっくり来るでしょう。
イカ世界ではSplatoonは一般名詞だった!
何らかの具体的な事柄を指す言葉を「名詞」といいますが、名詞はさらに分類ができて、一般名詞と固有名詞があります。
項目 | 例 |
---|---|
一般名詞 | 配管工、トマト、剣、大陸、戦闘機、水鉄砲 |
固有名詞 | マリオ、マキシムトマト、マスターソード、アカネイア、アーウィン、スプラシューター |
ざっくり言えば、「指し示す対象が幅広いもの」が一般名詞、「特定の対象を指すもの」が固有名詞です。
「Splatoon」は、我々の世界の中では「イカが主人公のあのゲーム」のことを指すため固有名詞です。
一方、イカ世界では…アタリメ司令の言葉を聞く限り、「インクを塗って闘う小隊」を指す、一般名詞としての働きを持つようです。 大ナワバリバトルの時代には「○○ Splatoon」という小隊がいくつもあり、その一つがSquidbeak Splatoonだったのでしょう。
辞書のような形でまとめてみると、以下のようになります。
ですから、これからSplatoonのチームを作ろう!と言う方は、「○○ Splatoon」というチーム名を付けてみて、通ぶってみるのも一興かと思います。
誰がSplatoonという言葉を作中に登場させたのか?
さて、イカ世界の中には結局、Splatoonという言葉は存在するのでしょうか。
答えはやはり「NO」なのだとわたしは思います。
というのは…Splatoonというゲーム(=イカ世界ののぞき窓)を作ったイカ研究所は、イカ語を我々の言語に訳すという仕事を施しています。
おかげで、我々は理解できないイカ語の会話を、問題なく読み取ることができているわけですね。
その過程の中で、日本のイカ研究員はわかりやすさを重視し「部隊」にあたるイカ語にそのまま「部隊」という日常の言葉を当て、
英語圏のイカ研究員は、彼らの専門用語であるところの「Splatoon」を当てた、というのはどうでしょうか。
「Splatoon」は英語寄りの言葉であるということもあって、翻訳の過程で両者のギャップが生まれたと言う解釈です。
もともと我々の言語によらずイカ世界は「ひとつ」なのですから、意外ともっともな仮説ではないでしょうか?
「Splatoon」と発声された、唯一の場面はシオカライブ!
じつはさらに決定的な形で、作中のキャラクターから「Splatoon」という言葉が登場したことがありました。
それは、シオカライブ2016のトークシーンでのことです。
まず、「スプラトゥーン甲子園」という字幕のところで、アオリちゃんがハッキリ「Splatoon」と発声しています。
シオカラ節に入る直前、ホタルちゃんの「はりきっていこ~!」という訳がついた台詞のところで、実際には「Splatoooooon!」と叫んでいます。
これは決定的、たきめしの仮説破れたり!と思われるかもしれませんが、ここにもまだ解釈の余地があります。(粘るよ!)
我々とイカ世界とシオカライブとSplatoon
シオカライブはもともと不思議なイベントでした。シオカラーズが時空を超えて我々の世界にやって来たのです。
いったい誰がそんなイリュージョンを可能にしたのかはわかりませんが、少なくとも彼女らを手引きした存在がこの世にいるはずです。
その人物は、二人をライブ会場に呼び寄せた折、こんな風に耳打ちしたのではないでしょうか。
- 「こちらの世界では、ナワバリバトルのチームはSplatoonと呼ばれている」
- 「ライブが最高潮になったとき、『Splatoon!』と呼びかけると、この星の人間は絶対に盛り上がる」
それを聞いたシオカラーズの二人は、それまで知らなかった「Splatoon」という言葉の発音を頑張って覚えたのです。
(我々が外国に行くとき、『こんにちは』や『ありがとう』だけでも覚えておくのと一緒ですね。)
我々の世界とイカ世界が特別に肉薄した一日だったからこそ、何者かの計らいによって、Splatoonという言葉がそこに出現したのです。
文化をもつ世界にふさわしいタイトルを
色々こじつけではありますが、「Splatoon」という名前がイカの文化のユニークさと、それを外から観察するわたしたちとの関係性から来ているという仮説を立ててみました。
そもそもこんな主張を臆面もなく出来るのも、ゲームの中でイカたちの暮らしが息づいているように感じるせいで、
音楽、ファッション、街、スポーツ、民族、歴史を総合し、豊かな世界観を築き上げたことの結果に他なりません。
まったく新規のIPにも関わらず大量の設定や素材を蓄積し、秀逸な世界観を生み出した点もこのゲームは評価されていますが、
このタイトルの歯切れのよさは、積み上げた膨大な資料と結びつくせいかもしれない、という想像をしてみました。
おことわり
この記事の内容は、全面的にたきめしの想像です。
これ以外の考え方を排除する目的のもと書かれたものではありませんし、まして公式性は微塵もございませんので、ご注意ください。
また、記事中に引用したミステリーファイルの文面について、著作権は任天堂株式会社に帰属し、権利者の申し立てがありしだい削除を行います。