Splattack!の和声学的特徴 メロディのトリックからキャッチーさを紐解く

CMと空耳で普及?Splatoonのメインテーマ

Splattack!とは、大ヒットゲーム「Splatoon」のサウンドの方向性を決めたと言われるテーマ曲です。

曲名に聞き覚えのない方でも、CMやバトルの動画等でSplatoonをご存じなら、きっと耳にしたことがあるはず。 発売前に放映された、Splatoonの「TVCM1」の後半で聴くことが出来ます。


Splatoon  TVCM1

インクから颯爽と現れるイカ、音圧は大きいがおかしみのあるサウンドをバックに、変身して降り立つガール。実にイカしたPVです。

ゲームビジュアルやシステムのポップなイメージとは裏腹に、このゲームの対戦モードBGMはバンドサウンドを主体としていて、 「ちょっと背伸びした若者が聴くような」音楽性にしていることを、サウンドディレクターの峰岸氏が明かしています。

以降に放映された「TVCM2」では、同曲の別のフレーズを聴くことができます。


Splatoon TVCM2

また、ニコニコ動画でよくある「字幕」では、 このサビのフレーズに「にゃんにゃんにゃんにゃん二枚貝~♪」という歌詞が付いて、視聴者に親しまれています。

この曲の特徴として「ちょっと昔っぽいバンドサウンド」「構成のシンプルさ」「メロディのキャッチーさ」などが挙げられますが、 実は和声の観点からみたとき、サビのメロディにちょっとユニークな特徴を見出すことが出来ます。

わたしがそれに気が付いたとき、この曲の中毒性の根源を、少しだけ探り当てることが出来たような気持ちでした。

実際のスコアを見ながら、説明していきます。

説明のため、Splattack!のスコアを作ってみた

この曲の構成は、とてもシンプル。パートは全部で6つあります。

パート 担当(設定) 担当(中の人)
ボーカル ICHIYA 竹内浩明
ギター ICHIYA 西川進
ギター ICHIYA 芳賀義彦
ベース IKKAN TABOKUN
シンセ NAMIDA -
ドラム MURASAKI 恒岡章

この曲を演奏しているとされるバンド「Squid Squad」は4人組で、メンバーのビジュアルイメージを公式に発表しています。

ギターを弾いているのはギターボーカルでリーダーの「ICHIYA」一人だけのハズなのですが、 注意して聴くと右と左にギターが一人ずついることが分かります。(多重録音でしょうか?)

OSTのジャケットでも、エレキギターの演奏者が、リードギターとサポートギターの二人いる事を明かしています。

さて、この記事で焦点を当てるのは、「にゃんにゃんにゃんにゃん二枚貝」でおなじみのサビの頭のフレーズ。

書き起こした楽譜を見ながら、和声的特徴を捉えてみることにしましょう。

なお、「メジャーコード」と「マイナーコード」の違いを知っているとここからの話が理解しやすくなりますので、 知らないという方は下記サイトなどで学習しておくとよいでしょう。

http://kaymusic-online.com/index.php?guitar_majorminor1

サビ頭のコードはAm しかしよく聴くと…?

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スマホ撮影のため少々暗く見にくいです。あしからず。

下の動画ではSplattack!を通して聴くことが出来ます。0:50からのサビを聴いてみましょう。


スプラトゥーン(Splatoon) BGM「Splattack!」30分耐久版 - YouTube

サビの頭の音をパートごとに拾って、どんなコードになっているか調べてみます。

パート 音階(ABC) 音階(ドレミ)
ボーカル C
ギター E
ギター A
ベース A

シンセは鳴っていませんから、これで全てです。

コードはAmですね。

しかし、メロディの続きに注目してみると、ちょっとヘンな所があります。

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赤丸で囲まれた音符の音階は「C#」、つまり「ドのシャープ」ですね。

注意して聴いてもらうか、音源に合わせて鍵盤を弾いてもらうとわかるのですが、 三つ目の「にゃん」のところは、実は半音上がっています。

すると音の構成はどうなるでしょうか?

パート 音階(ABC) 音階(ドレミ)
ボーカル C# ド#
ギター E
ギター A
ベース A

なんと、一瞬だけAのメジャーコードが現れています。

これが、この記事の主題である「Splattack!のメロディのトリック」です。

もう一回、サビのところを聴いてみて下さい。 二回目の「にゃんにゃん」で明るいニュアンスがふわっと浮かび上がるのを感じませんか?

この手法がどの程度特殊なものか、バンドサウンドに起源があるものなのかはわかりません。

でも伴奏にAとEだけ弾かせておいて、ボーカルがその間のCとC#を行き来することで和声をコントロールするという方法が、 音の響きがウネウネと歪むような感覚を生んでいるのは分かりますね。

殺伐としがちなシューターに「インクの塗り合いという遊びにマジになってるイカの若者たち」という属性を付けた、このゲームのユニークさを象徴するような、シンプルながら効果的なトリックだと思います。

ゲームにおけるメインテーマの機能

Splattack!はSplatoonが一般に初めて披露されたE3 2014 出典映像でも、BGMとして使われています。

先述の二つのCMのBGMであるのに加え、ゲームを起動したときに鳴るドラムソロはこの曲のリズム隊ですし、 エンディング曲「マリタイム・メモリー」の伴奏の中にもこっそりシンセのフレーズが登場しています。

ゲームにおけるメインテーマ曲の重要性については、語りつくせるものではありませんが、 一般に以下のような機能があります。

  • 開発において、ゲームサウンドの方向性を定める
  • アレンジ版や一部フレーズを頻繁に登場させることで、作品全体の空気を統一する
  • ゲームがシリーズ化した場合、シリーズの世界観を統一するバックボーンとして活用する

Splatoonはサウンドの特徴付け方としてはかなり異質な方法を取っていて、 設定上、全部で6つもの音楽ユニットが作品内に登場し、それぞれが異なる音楽性を発揮しています。

破綻なく一つの作品の収まるためには、「個性」と「統一感」のバランスが重要と思われますが、 「Splattack!」はこのゲームの最初のサウンドとして、 後から現れる全てのBGMと同居させて、耐えうるほどの強靭な個性と包容力があったと見るべきでしょう。

その一つのタネとして、ちょっとしたメロディのトリックをご紹介しました。

音楽が好きな方、作曲をされる方の、何かの参考になれば幸いです。

おまけ - Splatuneの聴きどころ「Splattack!(Jam Session)」

10/20に、Splatoonのオリジナルサウンドトラック「Splatune」が発売されました。

ちょっぴりなつかしいバンドサウンド、音楽性の異なる6つのグループなど特徴的なSplatoonのサウンドですが、 個人的に衝撃的だったものの一つは2曲目に収録の「Splattack!(Jam Session)」でした。

ゲームのメインテーマ曲である「Splattack!」が完成するまでのバンドのセッションを模したトラックで、 ゲーム内ではチュートリアル用の曲として用いられているもの。

通しで聴くと本当に即興演奏のように聴こえ、本当にイカの4人組が演奏しているかのような臨場感でした。

もともとSplattack!が好きな方や、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひSplatuneの購入を検討してみてください。

追記:Splattack!に歌詞はあるのか

「Splattack! 歌詞」などで当ブログにいらしている方がいるようですので、歌詞は用意できないですがちょっとだけ言及をば。

「Splatune」の歌詞カードにはシオカラーズの楽曲である「ハイカラシンカ」「キミ色に染めて」「シオカラ節」の歌詞が掲載され、その奇天烈さに度肝を抜かれた方も多いかと思いますが、

あの歌詞は実際にレコーディングの際に、中の人であるkeity.popさん、菊間まりさんに渡され「使われた」もののようです。

とすると、同様に生のボーカルを加工して作った「Splattack!」にも「歌う用の歌詞」が存在するはず。

実は「ナワバリバトルで流れるバンド曲の歌詞は、西洋の言語をイメージしている」と、インタビューで言及されたこともあります。

www.famitsu.com

以上のことからSplattack!の歌詞は「存在するが、公開はされていない」ようですね。いつか世に出てくる日が来るのでしょうか。

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4/29(金・祝)に超会議・超音楽祭出演が決定したシオカラーズのライブで、観客側から出来ることについて考察した記事があります。

この記事に来て下さった音楽好き&Splatoonファンの方に、ぜひご意見を伺いたい内容になっていますので、

お読みになった上、是非についてブログへのコメントや筆者(@TKTshooter)宛のDMを頂ければ有難く存じます。

kotodamar.hatenablog.com