クライマックスの表現技法 加速するBGMで心拍数を上げろ!
佳境、山場、最高潮を演出するもの
ドラマ、小説、映画、音楽、どんな作品にも終わりがあり、終わりに向かうにつれ盛り上がりを見せて欲しいと思うのは、
時間の上に展開されるあらゆる表現の共通項と言ってもよいのではないでしょうか。
作り手もそれを知っているから、大小問わず「終わり」に近いところで、いちばん受け手の心を揺さぶる要素を持ってきたり、
カタルシスを感じさせるための伏線を張り巡らしたりします。
また、作品に親しむ過程で目に、耳に染み込んでいく要素を上手に使うと言うのもよい手法でしょう。
最近のアニメでは、クライマックスでオープニング曲を流す作品が多いという風に聞いたことがあります。
作品の最後のほうともなれば、それなりの盛り上がりを見せなくてはなりませんね。
- 作品の途中で姿を消したキャラクター、存在のみ仄めかされていたキャラクターの登場
- 主要なキャラクターの死や、主人公の下を去るという出来事
- ストーリーの前提が覆り、もう二度と(または、しばらく)同じ光景を見ることは出来ないという宣言
- 結婚や出産といったライフイベント、または恋愛の成就、失恋
分類しようというのも浅はかですが、作品の最終的な像を決定づけるのに、どんな展開を選ぶかというのは作り手にとって血の滲むような決断でしょう。
一方で、繰り返される「終わり」については、もう少し再現性のある方法が使われるようですよ。
「残り1分」「残り1周」チャンスはあとわずかだ!
ビデオゲームは、終盤戦の盛り上がりが重要です。
一部のアクションゲームやレースゲームなどには、「BGMのテンポアップ」という、クライマックスを演出する効果的な技法が使われています。
レースの最終局面(ファイナルラップ)を演出
例えば、マリオカートシリーズ。
【10分耐久】マリオカート8 BGM マリオカートスタジアム
最新作の「マリオカート8」の最初のコース、「マリオカートスタジアム」のBGMです。
周回数は3周で、ファイナルラップに突入するとBGMがテンポアップ!
Mario Kart Stadium (Final Lap) - Mario Kart 8 Music Extended
テンポが速くなった分、ベースのリズムがよりグルーヴィーになり、気持ち良く聴けると思います。
じつは今回の記事は、「マリオカートのコースBGMは、テンポアップ前後で曲がどう変化するか」にしようと思っていました。
でも、意外なことに、曲のアレンジやミックスなどが全くと言って良いほど変化しないんですね。
テンポアップ前はBPM144、テンポアップ後はBPM178なので、場合によっては曲が破綻するほど無視できない差があると思うのですが、
リフや、音の持続時間に至るまで、本当に変化がありません。
それぞれのテンポに最適化して作りなおすほうが、むしろカンタンな気がしますから、
わざわざどちらにも対応できるよう曲が作られており、そうするに足る理由がある、と考えるのが自然でしょう。
(もしも理由をご存じの方、ご一報いただければ幸いです。)
ゲージMAXからのスペシャルウェポン!
対戦アクションのSplatoonでは、3分間のナワバリバトルが終盤に差し掛かると楽曲そのものが差し替わります。
スプラトゥーンSplatoon BGM「ink or sink」15分耐久版
こちらは平常時の楽曲の一つ「Ink or Sink」で、BPM205と最も速い楽曲です。
そして、残り1分になると流れる「Now or Never!」がこちら。
Now or Never! - Splatoon [OST]
「Now or Never!」のBPMはおよそ185ですから、数字だけ見ると「遅くなってるじゃん」と思われるかもしれません。
でも、聴いてみると「Now or Never!」の方がスピード感がありますよね。
これは1小節の中でスネアを4回打つ(という説明でいいのかしら)「バイテン」になっているためで、
BPMが倍の370であるかのように錯覚するリズムを使い、プレイヤーをエキサイトさせるよう曲が作られているのです。
法廷が熱を帯びる - モデラートからアレグロへ
ちょっと毛色が違いますが、「逆転裁判」シリーズのBGM変化の使い方は面白いです。
証人の証言を聞いたり、弁護人(主人公)が尋問する際に流れるBGMは、毎作のOSTで必ず「尋問 ~モデラート」と題されています。
こちらはシリーズ第1作のリメイク版にあたる「逆転裁判 蘇る逆転」の尋問 ~モデラートです。
逆転裁判は一つのソフトに複数の事件エピソードが収録されていて、どの事件も終盤に差し掛かると事件の真相や真犯人が明らかになりはじめます。
法廷は独特の緊張感を帯び、もう少しで犯人のシッポを掴めるという期待感でプレイヤーは手に汗を握り、証言のムジュンを探す目は血走るのです。
そんな時に流れるのがこちらの「尋問 ~アレグロ」です。
「モデラート」「アレグロ」はそれぞれ音楽用語で、モデラートが「中位の速さで」、アレグロが「快速に」という意味。
さらに、スピンオフに当たる「逆転検事」シリーズでは、あと一歩のところまで真犯人を追い詰めての対決時にのみ「対決 ~プレスト」というテーマが流れ、
3段階のBGMを使ってゲームの進行を表現するようになりました。
ちなみに、5月に行われたゲーム音楽の祭典「4star」では、逆転検事2の3つの「対決」テーマを全て含んだメドレーを演奏しており、
わたしもその場に居合わせることが出来ましたが、ファン心理をよく掴んだ見事なアレンジに胸を熱くしたものです。
繰り返しても飽きのこない快感はまれ
先に述べた通り、一つの作品のクライマックスのように、少ない回数のみ体験するものと違い、
ゲームの一プレイのクライマックスというのは数百、数千という回数繰り返すことはざらですから、
それだけの回数体験することに耐えうる強靭さを持った手法だという点で、BGMのテンポアップは注目すべき特質を持っていると言えます。
もしかすると、他のメディアに輸出される日が来るかもしれませんね。