「3Dクラシックス」に見る、不十分で力不足な表現媒体の今むかし
ビデオゲームが「電子のおもちゃ」だった頃
「3Dクラシックス」とは、株式会社アリカが手掛けた、過去の名作を3DSで復刻するシリーズです。
ラインナップは以下の通りです。
タイトル | 発売日 |
---|---|
エキサイトバイク | 2011年6月7日 |
ゼビウス | 2011年6月7日 |
アーバンチャンピオン | 2011年7月13日 |
ツインビー | 2011年8月10日 |
光神話 パルテナの鏡 | 2012年1月18日 |
星のカービィ 夢の泉の物語 | 2012年4月25日 |
なぜ今になって「3Dクラシックス」の話か…と言うと、わたし自身がこのシリーズの存在を知らず、
最近になって「3Dの夢の泉が遊べるらしい」という事を耳にしたためです。
バーチャルコンソールという、ゲーマーならだれもが待望していたサービスが開始されたにも関わらず、
意外と手を出すユーザーが限られている、という話はよく耳にします。色々な要因が考えられるでしょう。
- 生活環境の変化
- 嗜好の変化
- 過去と現在のギャップ(当時はそれが最新の表現だった…)
でも、こういう形で明確に「新しい体験」として呈示されると、やってみたいかなという気持ちが膨らみ、
わたしぐらいのゲームプレイヤーにはなかなか良いアプローチなのではないかなと思います。
3DSのもつ「立体視のおもちゃ」としての特性が、グラフィックやサウンドの優れた最新のゲームよりもむしろ際立って、
大人には刷新された体験として、子どもには興味深い対象として、親しまれることが出来そうです。
まず、「3Dクラシックス 星のカービィ 夢の泉の物語」をダウンロードして遊びました。
「夢の泉の物語」のジャンプアクションはキレている
わたしは1992年生まれなので、「星のカービィ」シリーズとは同い年です。
「星のカービィ 夢の泉の物語」はゲームボーイで登場した初代「星のカービィ」に続く2作目で、
ファミコンによって初めてTV画面にカービィが映された、「ピンクのカービィ」そして「コピー能力」の初登場となる作品です。
わたしの子ども時代でも、思い入れの深いソフトでした。
同じ3DSで登場したカービィのソフトと言うと「星のカービィ トリプルデラックス」がありますが、まず操作性がまったく違うということが際立ちました。
特にジャンプ周りの仕様が随分異なっており、上手く操作できないことが衝撃的でした。ちょっとマニアックな話になりますが、以下にまとめます。
入力 | ステータス | 夢の泉での反応 | TDXでの反応 |
---|---|---|---|
ジャンプボタンを押す | 地上 | ジャンプ | ジャンプ |
ジャンプボタンを押す | 空中 | 無反応 | ホバリング |
十字キー上を入力 | 地上 | ホバリング | 無反応 |
十字キー上を入力 | 空中 | ホバリング | ホバリング |
一言でいえば、トリプルデラックスに比べると、夢の泉の操作感はかなり「玄人向け」に感じるのです。
ポイントは「空中でジャンプボタンを押したときのリアクション」なのですが、
「トリプルデラックス」では「プレイヤーがジャンプ(=上へ移動)したがっている」ということを察してホバリングを行いますが、
「夢の泉」では「ジャンプボタンはジャンプのためのもの!」と割り切り、ホバリングしてくれません。結果、カービィが落下するリスクが大きくなっています。
加えて、カービィのステータス(地上か空中か)によって、もっともクイックな上方移動の手段が違うため、
プレイヤーは上達するに従い、「地上ではジャンプ、空中ではホバリング」という使い分けを意識的に行うことが出来るようになってきます。
そこには「アクションを使いこなす」明らかな楽しさがあり、上手に操作することの快感は「夢の泉」の方が上かと思われます。
これは遊び比べないと分からない収穫でした。
わたしの主観ですが、当時はまだゲームが「ジャンプ、吸い込み、ダッシュ」といった動作の一つ一つに驚きと快感をもって楽しむ「おもちゃ」の延長という向きが強く、
ストーリー・グラフィック・サウンド・駆け引きを楽しむためにアクションの角を削って行きがちな、今のゲームとの違いを見て取れます。
「コピー能力」の衝撃的なお得感
「カービィといえばコピー能力」という常識がかすむくらい、
「敵の動きを自分自身が使えるようになる」というインパクトは、今遊んでもなお大きなものでした。
というのも、ファミコンの表現ではビーム、スパーク等の敵のアクションが「めいっぱいのもの」であることがありありと伝わるので、
それを自分のものに出来るという事のお得感が計り知れないのです。
「表現の自由性」を獲得した今のゲームには無い、不思議なありがたみが強く感じられました。
長らく忘れていた感覚でもあります。
トリプルデラックスへの展開と、今のゲームに必要な力
2012年4月25日の「3Dクラシックス 星のカービィ 夢の泉の物語」の発売から2年経ち、
2014年1月11日に、当時の最新作「星のカービィ トリプルデラックス」が発売されました。
3D機能を生かして「奥に、手前に」カービィが行き来するという視覚的な遊びが加わり、
美麗なグラフィックや多彩なコピー能力、コマンド入力によるアクションの充実、
すれちがい通信を生かしたプレイヤー同士のサポートや、過去のシリーズの財産を生かした「キーホルダー」の収集など、
技術の進化によって入れられる要素の制約はどんどん排され、制作物のボリュームは大変なものになってきています。
ただ、ファミコンというごくごく限定された技術の箱の上で展開されるにも関わらず、
扉に入るたび次々に移り変わる背景、多様な動きをする敵キャラと、そのアクションをコピーして使えるという驚き、
いい加減なやり方では攻略できない歯ごたえや、予想もしなかったストーリー性によって、
その興味深さに遊び手を夢中にさせたファミコンの「夢の泉」の面白さからは、随分遠い所に来たという感じがするものです。
「何でも入る」(あるいは、入りそうに見える)箱がビデオゲームの基盤になることで、
ごく限られた機能や規則だけで表現をしようと試みるゲームの、まさに「おもちゃ」然としたミニマルな魅力は失われています。
限りなくこだわり抜いた表現への挑戦、開発者や技術者の情熱がゲームをそこまで連れて行ったと言えばそれまでですが、
言うなら子どもや小動物に対して生じる「愛おしむ」ような気持ちが、ゲームに対しても起こるのは、
この不完全、不十分な興味深いメディアあってのことではなかったかと、思わずにもいられないのです。
鍵を握るのはユーザー自身の表現(かも)
「噛むほどに味が出る」「分かる人には分かる」対象だったゲームは世俗化して、
どこまでも敷居を低く広く出来るし、何でも取り込めるメディアへと変貌していきました。
(本当はタダで「何でも出来る」訳じゃないぞ、という批判もおありでしょうが、今はさておき。)
ゲームの表現が何をも包摂出来るようになった今、最後に残った不自由性はどこにあるか…というと、実はユーザーの側に眠っているという気もしています。
開発者が制約の中で、「表現の限界」を突き詰めることで、独自の愛おしさを獲得していき、人を夢中にさせてきたはずです。
そういった、メディアの魅力を高める努力が委ねられた主体は今誰か…ということを考えると、案外「私たち自身」が有力になりつつあるんじゃないでしょうか。
つまり、ユーザーによる二次創作です。
- 絵や漫画を描いて、作品世界を表現する
- 派生的なストーリーを作ってみる
- BGMのアレンジ、映像化、etc.
ゲームの自由性が増した今、相対的に不自由になっているのは、絵を描いたり、物語を作ることに不得手な素人の「私たち」の方です。
ちょうど、同時に発達してきたWebのおかげで、同じゲームを愛好する人と語らうことは当たり前になりましたから、
そういった活動を含めて「ゲームの面白さ」と呼ぶことはもはや不自然でも何でもないでしょう。
ハードが持っていた不自由性と取って代わり、わたしたち自身の至らない力そのものが、
失われつつある、ゲームの持つ愛くるしい魅力を補う時代が近づいているのでは…なんて。
(Twitterなどで、ファンの方同士が互いの作品を褒め合うところなど、見ると尚そういう風に感じます。)
ドット絵とFM音源のように不十分な表現の可能性は、今やわたしたちの頭の中にこそあって、
それを懸命に外に出していくことによって、ゲームが独自の面白さを帯びていく、なんてことがあったら面白いなぁと思っています。
やっぱり、どこか欠けたものにこそ魅力を感じるものですもんね。
おまけ - スマブラでの展開「夢の泉」と「バタービルディング」
本作ディレクターの桜井政博氏が生んだタイトルという繋がりもあって、
「スマブラ」シリーズでは「夢の泉の物語」をフィーチャーした要素が継続的に登場してきています。
ニンテンドー64の初代スマブラでは、ストーリー・ラストバトル上のキーアイテムである、
「スターロッド」がアイテムとして登場し、以降のシリーズでも皆勤となっています。
スマブラDXでは、本作の舞台である、人々に夢を見せる不思議な力を持った「夢の泉」がステージとして登場。
オーケストレーションされた「夢の泉」という名前のBGMは、実は別の作品の「グルメレース」が出典ではありますが、
指折りの人気曲であり『大乱闘スマッシュブラザーズDXオーケストラコンサート』でも演奏されました。
ちなみに、「夢の泉の物語」のリメイクに当たる2002年発売のGBA「夢の泉デラックス」では、
最終7面「レインボーリゾート」のボスであるデデデ大王との、夢の泉をバックにした決戦で同BGMが使われるという「逆輸入」が起き、話題となりました。
一方、知名度こそ劣るものの、スマブラXの「戦艦ハルバード」ステージでは、
3面「バタービルディング」のBGMがオレ曲セレクト対象の一つになっています。
軽快な原曲とは異なる、ナイロンギター/エレキギターを中心とした構成ですが、
ちょっとした「サプライズ」の仕掛けが曲中に用意してあり、ファンの心をくすぐると共に、ダイナミックな表情変化が楽しい楽曲になっています。