同人作品と海賊版と著作権 & わたしがスプラケット8参加を決めた理由

本記事は、わたしの同人活動に関する考えと、同人の基本的な論理、また直近で参加しようとしている「スプラケット8」への参加の意志についてまとめたものです。

わたしはまだ同人活動を始めて日が浅く、スプラケット6で初めて即売会にサークル参加し、その後スプラケット7にもサークル参加しました。
他の即売会(コミケやその他オールジャンル、各種オンリーイベント)にはサークル参加したことのないひよっこです。

サークル主として初めて参加した即売会であるスプラケット6は、刺激的な場所でした。

作品市場の大きさを表すように、沢山の方が会場を訪れて、何人もの方がわたしの本を手に取ってくれました。
pixivやTwitterなどのサービスでは知ることのできなかった読者様の存在も知ることができ、感激したのを覚えています。

一方、同人という活動がグレーな領域にあることは、常に意識して活動せねばなりません。
ところが、「同人はグレー」とはよく言われることですが、その詳細な論理を説明している文献はあまり見かけません。
「なんとなく漠然とした不安を抱えながら作品を創っている」という方も少なくないのではないかな…と思います。
読者様となればなおさらに「よくわからない」方が多いでしょう。

わたしは幸運にも、大学の講義という形で、コミケ黎明期の中心的人物だった先生から「同人と著作権の関係について」聴いたことがあります。
なので、今回はその時聴いた話を一部援用しつつ、同人の論理と、先般のスプラケット7で起きた出来事について整理し、意見を述べていきたいと思います。

スプラケット7で起きたこと

わたしは閉会後にSNSで知ったことなのですが、スプラケット7では「海賊版」頒布の事実がありました。

サークル参加されていた方の一人が原作中の「ギアパワー」のアイコン、つまりゲーム中で使われているデザインをそのまま使用したバッジを配っていたということです。
その事実は即売会の最中に明らかになり、開催元に報告して対応を求めた方もおりましたが、明確な処分のないまま即売会は終了しました。

これがSNSで大きく拡散され、開催元の対応の是非が問われることとなりました。

開催元の対応について

海賊版はダメだから、開催元はそれをしっかり取り締まらないとダメじゃん」という参加者様の意見については概ね同意です。
そのことがもたらしてしまった「悪い出来事」については、本記事の最後で述べておきたいと思います。

海賊版は何故ダメなのか

(ここから『先生』からの伝聞の翻案)

まず大前提として知っていただきたいことは、「すべての二次創作作品(Web・同人問わず)は著作権を侵害している」という事実です。
権利元の許諾を取って公開ないし頒布している作品はその限りでありませんが、そういった作品はそもそも二次創作とは呼ばないでしょう。

この記事を読んでいる方は、Webコンテンツや頒布物というかたちで、原作の世界観を多分に反映し独自に解釈した、素晴らしい作品が市中に出回っていることをご存知かと思います。
ただし、著作権を侵害しているという点においては、そのような作品も海賊版も何ら違いはないというところが、議論の出発点になります。

海賊版(コピー品)の問題はひとえに、「権利元と利益を喰い合っている」点にあります。
ギアパワーのバッジは、権利元がそっくりそのまま同じデザインの商品を販売しようとする可能性があり、その際に市中に出回っているコピー品の存在が(たとえ少量でも)障壁になるという筋です。
このような問題が起きたとき、権利元は著作権を行使して、市場からコピー品を排除するための措置を取ることが出来ます。

権利元が出来る措置ついては、下記ページなどをご覧ください。

http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime8.html

ポイントは以下の2点です。

  • 権利元は侵害行為(ここでは同人活動)の差止請求などができる
  • 著作権者以外の主体には、差止請求は出来ない

なぜ多くの同人活動は容認されているか

海賊版ではない(と判断されるような)同人作品が、咎められることなく出回っている理由については、いろいろな意見があると思いますが、
わたしは冒頭で述べた先生の意見が最も筋が通っていると感じるので、それを紹介させていただきます。
「良質な二次創作作品」が容認されるのは、以下の理由からだそうです。

  • 著者の独自性が反映されているので、権利元にも作ることが出来ない
  • 二次創作作品はある意味「最強の口コミ」なので、差し止めは合理的判断と言えない
  • 作品供給者は最もコアなファン層であり、蔑ろにすることは顧客関係管理(CRM)上の判断としてありえない

以上の事由により、「権利元にも作れない、著者の独自性が反映された作品」は頒布のリスクが低いと考えられます。
最大級のファンである同人作家の活動を排除し、作品の供給を止めることは、権利元にとって損失になってしまう可能性が高いからです。

(ここまで『先生』からの伝聞の翻案)

なお、同人にはもう一つ「自社IPのイメージの毀損」という問題もある訳ですが、その点については今回のトピックの範疇を超えているので、触れないことにします。

海賊版規制と開催元の役目

さて、特に大きなリスクを孕む「海賊版頒布」ですが、それが行われる主な現場は即売会ということになります。

同人作家、読者、即売会開催元の共通認識として、「海賊版の流通は喰い止めたい」と思っているはずで、その抑止力を誰が担うか、ということが問題になります。

2つ、考え方を記述してみました。

  1. 参加者同士の相互扶助によって抑止すべき(同人作家、読者が抑止力を発揮)
  2. 開催元が海賊版規制のための手段を持ち、取り締まるべき(即売会開催元が抑止力を発揮)

わたしは2.の方が筋が良いと思っていて、それは以下の理由に依ります。

  • 開催元は第三者の視点で判断が出来る
  • 開催元は場数を踏んでおり、トラブル抑止ためのノウハウを蓄積することが出来る

あるいは、「開催元は参加者からお金を取っているから、トラブル抑止について努力する義務がある」という意見もあるかもしれませんが、
今回の開催元のイベントページに、サークル参加者の退場処分、頒布物の売買停止・回収といった措置に関する記述がないことから、開催元に義務は生じておらず、その意見は通らないような気がしています。
(『そういう記述をし、努力すべきだ』という意見には賛同します。)

わたしがスプラケット8参加を決めた理由

以降は、多分に想像に基づいた、メンタルな話になります。
でも、この記事を書こうと思った直接のモチベーションも以降の記述にあるので、読んで頂けると嬉しいです。

さて、同人活動を禁止するということは権利元企業の「意思決定」であり、どこまでが許容範囲であるかは権利元企業の一存で決まります。
「権利元には同人活動の差止請求をする権利があるが、行使しなくてもよく、他のいかなる主体も権利の侵害について訴えることはできない」ことがポイントでした。
同人活動を規制するかどうかの意思決定はひとえに権利元企業に委ねられています。

そして、その意思決定をするのは皆さんもよくご存じの企業さんな訳です。

権利元企業の目線

権利元企業が、どんなプロセスで意思決定をするかは、分かりません。

だから、以降の内容はほぼすべてが推測になります。それを踏まえた上でお読みください。

まず権利元企業(の一部スタッフ)は、二次創作という形で生み出されてきた個別の作品の一部を、(特に有名なものを中心に)恐らく見知っています。

創作という形で、ファンの原作に対する想いが昇華され、たくさんの人の心を動かしていることも知っているはずです。

それがリアルに流通し、金銭のやり取りが生じている同人という場についてどう思っているかは分かりませんが、
そういった想いの込められた作品が少なからず流通している場であり、そこに居るほとんどの人間に悪意がないということは汲んでいると思います。

仮に同人界隈に対する何らかの処置を取るとしたら、法務の一存で処分の内容が決まるということはなく、自社IPの価値を守るという観点や、顧客を大切にするという観点を持ったスタッフの間の合意が取れて、初めて動くことになるのでしょう。

だから、「こういうことが起きたら(ex. 海賊版の頒布)同人活動の全面差し止めに踏み切ろう」という固定的な基準を持っていることは少々考えにくく、多角的な視点の下、熟慮して決断をするはずです。

そういった中でおそらく重視されることの一つは、「同人界隈に自浄作用が働いているかどうか」ということです。
そのことを、Webで、あるいは即売会の現場で、確かめるのではないでしょうか。

自浄作用は働いていたのか

これも主観になってしまいますが、「海賊版NG」という機運は、今回の一件でものすごく高まったように見えます。

つまり、参加者間の自浄作用は強く働いている、と考えて差し支えない状況にあると言えそうです。

その点は、同人界隈の存続に関するプラス材料と取れなくもないかな、と思います。

仮に大きな動きがあるとしたら、その現場に居たい

これがわたし個人の、イベント参加のモチベーションです。

わたしは、大好きな作品の権利元が、ファンの創作活動について何か大きな判断を下すとしたら、その出来事の当事者でありたいと思っています。

「細部はよくわからないけど、いつの間にか○○の創作活動が禁じられていた」という状況に陥ることは、どうしても避けたいです。
その日が来たとき、少しでも後悔しないための手段として、わたしは即売会の現場にいることを選びます。
少なくとも、現場に居ることで、出来ることがあるかもしれない訳ですから。

「そもそも当該イベント自体が縮小路線に向かうべき」という意見にも頷けるところはありますし、そのために「出ない」と判断された方の意志も尊いと思います。
オンリーイベントは他にもいくつかあり、そちらの方が開催元がしっかりしているという意見も聞きましたが、時期的な問題で、まだそちらには行ったことがありません。)

ただ、いずれにせよ当該イベントはこのまま開催されそうです。
ならば、わたしはそこで起きることを、この目でもう一度は見ないと気が済みません。
次々回以降にどんな気持ちでいるかは、現時点ではわかりませんが、少なくとも今は熱意を燃やしています。

さいごに

個人的に、悪意のない形で生んでしまった作品を、不特定多数の方から「海賊版」と呼ばれた方がいることが、今回の一件で一番不幸なことだったと思っています。
批判した方を批判する意図はなく、むしろ「開催元が取り締まっていれば、これほど多くの方からは叩かれなかっただろうな」ということに残念な気持ちです。

願わくば、今回の一件を糧として、事が成功裡に運ぶことを。