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初心者ナワバリストによる vsローラー奮闘記 前編

二次創作小説(Splatoon) Suckers

垂直に切り立った金属質なレールを塗っているとき、わたしの頭の中に思い浮かんでいたのは、憧れのナワバリストたちがみな口にする、この高台の上からの景色。

「その場所に立つことは、まるでわたしを引きとどめるような優越感をもたらす」…あるインタビュー記事で、有名なナワバリストがそう語っていました。

抜けるような青空と、風になびくヤシの木、数々のセクション、そして林立するビルと道路に囲まれたパノラマ。

その景色へといざなうように、滑り止めの金属加工は空を指し示し、インクで塗りつぶした後も表面をデコボコさせています。

わたしはイカの姿になると、自らのインクに沈みこみ、重力に逆らってそのレールを進みました。
壁にぴったりと張り付いたまま泳いでいくと、レールの途切れた箇所で勢いよく飛び出し、丸くかたどられたその場所にぺしゃりと叩きつけられます。
ちょっと痛かったけれど、なんでもありません。丸い台の中央にある、あの有名なバトロイカのロゴが見えたのですから。
急いで立ち上がると、前後不覚になっていたわたしはとにかく上を向きました。

初めてそこに2本の足で立ったとき、わたしの目に飛び込んできたものは、抜けるような青空ひとつだけ。
ヤシの木にセクション群、それに道路とビルは確かにあったのでしょうが、それ以上のものをあたまが処理するより前に、わたしはその場所から去ることになったからです。

「あっ」

わたしに一足遅れて、ぐわっ、という音とともに円筒形の壁から這い出てきた青いインクの少年。
彼は垂直な壁から飛び出すやいなや、大きなものを振りかぶって、わたしにまっすぐ相対していました。
背筋がゾクリと凍ったのは、わたしを轢き潰すために抱えた重たさ、その負荷に耐えるために身体を反らし、息を止めて、口をへの字に曲げていたから。
わたしは衝撃に備えて目を瞑ることしかできず、手にしたブキはお飾りと化し、振り注いだ青のインクの量たるやすさまじく…

「ひゃああっ…!」

わたしの身体は一瞬にして蒸散し、Bバスパークの風へと溶けたのです…!


初心者ナワバリストによる vsローラー奮闘記


Bバスパークはハイカラシティ郊外にあり、ナワバリバトルの公式ステージの中では唯一、バトルのステージとなることを前提に設計されたことから、「バトルの聖地」と呼ばれる場所。
ナワバリバトルスポットとして有名であるだけでなく、自治体がバックアップしていることから利用料がかからないその場所は、まだまだバトルで稼げているとは言いがたい駆け出しのナワバリストにとって、非常に使い勝手の良いステージでもあります。

快晴の日は特に、ハイカラシティからインクリングたちが大挙して押し寄せます。
橋を渡って自動車で、徒歩で、電車で…思い思いの方法でやってくる者たちは、ごく一部の者がバトルに出場し、残りの大部分はステージの外から観戦を楽しむのでした。

意気揚々とやって来た、6人編成のナワバリバトルチーム「Suckers」のお目当ては、同じく太陽につられてやって来たライバルたちとの、インクをぶつけ合う熱い闘い。
彼らがこの場所を訪れた回数は、一度や二度ではありません。
夏向けのギアでファッションを統一した彼らは、健康的な肌色をフクから覗かせて、これから待ち受けるバトルに浮き立っています
先頭に立つ少女…ミツは、手で目の上にひさしを作り、あちこちで行われているバトルに視線をやります。

「おー、やってるやってる。今朝のハイカラニュースで放映されただけあって、盛況だねぇ。タカナちゃんはどこに居るかな」

インクを射出する大小の音やローラーを地面にぶつける音、味方をリードする掛け声があちこちから聞こえて来るたび、ミツは身体をウズウズさせています。
彼女の動きに合わせてユラユラと揺れる肩掛けのバッグには、ナワバリバトル用にチューニングされた最高にスタイリッシュな水汲み道具…バケットスロッシャーと、そのメンテ道具が。
うすい水色をしたアロメのTシャツは、年齢より若干幼く見える彼女の顔立ちをカバーして、やや大人らしい印象を醸していました。

ミツの横で、親しげに話し込んでいる二人の少年は、「Suckersの鉄分」と周りに称されるハツラツなコンビ、ケビンとガッツです。

「灼熱のBバスパーク…私のブラスターが火を噴くには、これ以上無いお膳立てと言えるだろう」
「自分はこの日に合わせて斜面でのローラー捌きを練習して来たッス。そう、今日はボウルでコケるなんてこと、あるはずがないッ!」

夏模様がやけに似合う二人は、かたや静かに闘志をたぎらせ、もう一方は前回の失態を返上しようと空に向かって誓いを立てます。
ケビンは愛用のサングラスと相まって、バカンスに来た著名人のように見えるアロハシャツを着用。
ガッツは大柄な身体を目立たなくするよう黒のTシャツを着ていますが、爽やかなサンバイザーと赤いスニーカーで、遠くからでもよく分かるファッションにまとめています。

「あっちぃ!何だって運営はこんな日に屋外のステージ選んじまうんだよ~…毎日マヒマヒがいいわ」

3人の後ろから、重たい足取りでフラフラと付いていき、だくだくと流れる汗を恨めしそうにふき取る少年はツルギ。
ツルギの隣を歩く少女は、一見彼の言葉を聞いていない風に眉一つ動かしませんが、時折フッと笑って反応を返しています。

「それならナワバリバトルは止めにして、存分にリゾートを楽しんでくるといい。お前だけな」

静かな優しい声で刺々しい皮肉を言う、この年上の少女はリューカ。
ツルギと同じ空間に居るとは思えないほど涼しい顔をしていますが、制汗剤を抜かりなく用意してきた準備の良さが勝因のようです。

「バカ言うんじゃありません…あそこの正規の入場料、どんだけすると思ってんスか」
(…カネがあったらリゾートを選びかねないな、コイツは)

「さて、みんな?わたし達は電車が遅れて到着が遅くなったけど…タカナちゃんだけは別の路線で向かって、先に到着してるはず。一足先にナワバリバトルに入ってみるって、連絡があったけど…」

ステージの入り口近くに到着した彼らは、一足早くバトルに参加しているはずの、最年少のメンバーを探し始めます。
クラゲやエビなども含む見物客や、バトルを終えてはしゃぐインクリングの集団、また作戦会議中のチームなどが混在しますが、目当ての少女がいるようすはありません。

「…見つからないね。バトルが終わった子は、この辺りで休憩してることが多いのに」
「勝っていれば同じチームの連中と居ることが多いな。負けていたらたいてい散り散りだから…たぶん隅のほうでドリンクでも飲んでるだろ」

経験則に基づくリューカの推理は、後半部分が事実に即していました。
ただしタカナの居場所に関する予想は外れ、それは屋外ではなく、別の場所であったのです。
彼女を見つけ出したのは、目の機能が優れたインクリングたちの中でもズバ抜けた、視力5.0を誇るガッツでした。

「あっ!あれ…タカナちゃんじゃありませんか?」

ガッツが指差した先は、ステージの横に設置された、トイレのそば。
赤いイカのマークのついたトイレの入り口から出てきたタカナは、いつもと違うギアを身に着けていましたが、離れたところにSuckersの面々がたむろしているのに気がつくとすぐに駆け寄ってきたものですから、見間違いでないことはすぐに分かりました。
ガッツやツルギは、お~い、という能天気な声とともに手を大きく振って、彼女を出迎えました。
ケビンとリューカは、彼女のいた場所と様子から、バトルの結果が思わしくなかったことを察しました。
そしてミツだけは…タカナの姿を認めてすぐに、いつもと感じが違うところに気がつき、生来の笑顔を引っ込めます。
チームに入って以来、常に真剣そうなまなざしのタカナではありますが、今日はとりわけ眉間に力が入り、口はきゅっと結ばれ、おまけに目はどことなく腫れぼったくなっています。
これは、と思い、ミツは身構えました。
彼女の予想通り、タカナはスピードを落とすことなく5人に向けて突進してきました。
そして、水色のシャツを着た頼れる先輩にしっかと抱きついて、声を上げたのです。

「ミツさぁん…!」
「タカナちゃん!会いたかったよ。一人でバトルしてきたんだ、頑張ったねぇ」
「うぅ~っ!」

タカナはミツの胸に顔をうずめると、さっき洗ってきたのであろう顔を、また自分の涙で濡らしてしまいました。
嗚咽を漏らす彼女に対し、Suckersの面々はざわめきましたが、共感こそすれ、取り立てて驚くということはありませんでした。
ミツの胸でさめざめと泣く彼女の心境は、ナワバリバトルを続けて行く中で幾度も経験するものなのですから。
ただ、それをこういう形で表現するメンバーが、今までこのチームにはいなかったというのは確かでしたが。

「…なぁなぁ、タカナちゃん、よっぽど悔しい負け方をしちまったみたいだな」
「そッスねぇ。自分が最初に負けたときを思い出しちまいます。わかばシューターを抱えての緒戦。無慈悲なメガホンレーザーで、バリアごとシオノメの海に突き落とされたあの日を…!」
「緒戦にしちゃ随分レアなやられ方したんだな、オマエ」
「『レア』というか、『アレ』と言うべきだろうな」
「お、リューカさん、うまい」

3人が時間を転がしている間に、しだいにタカナの気分も落ち着き、ミツの胸から顔を離して、涙でふやけた顔を晒しています。

「ゴメンナサイ…わたし、Suckersの名前に泥を塗っちゃいましたぁぁ」
「大丈夫だよ。よしよし」
「気にすることはないさ。誰だって最初は初心者だからな…。それに、泥を塗られるほど名前も売れちゃいないんだ、アタシらはね。ほら、顔拭け」
「あ…ありがとうございます、リューカさん」

ふかふかした手触りの、白いレースのハンカチを手渡されて、タカナはふやけた顔を整えます。

「名前が売れてないって…そうなんですか?」
「うん。だからね…バトルの経験もない、14歳になりたてのタカナちゃんが入団を志願してきて驚いたよ。たまたまネットの中継に映ってたわたし達を見て、惚れ込んじゃうなんてね」

ミツは自分のアドレスに、まだ故郷に居た頃のタカナが送ってきた一通のメールを思い返しました。
まだヒトの姿にも成りきれない女の子が、都会への手がかりを求めて送ってきた渾身の便りは、世話焼きの彼女の心を強く揺さぶったのです。

「嬉しかったなぁ。それでわたしたちは決めたんだ。この街に来たキミのことを、誰よりも早く一人前にしてあげるって」
「誰にこっぴどくやられたか知らないが…次はやり返してやることさ。バトルを続けてればまた逢える」
「敗戦の悔しさは、勝利によって塗り替えることだ。私の愛読書、『ナワバリバトルの流儀』にはそうある」

タカナは目をパチクリとさせて、目の前に立つ3人の先輩たちを見上げます。
ぐっしょり塗れた水色のシャツ、顔に大きな陰を落とすつば広の帽子、言葉と裏腹に浮かれたアロハを順番に見つめて、彼女はペコリと頭を下げました。
アクションで怪我のないよう用意してきた、あご紐をしっかり結んだバイザーメットのロゴがちらりと見えました。

「みなさん…ありがとうございます。お陰で目が覚めました」

ゲソがぶらんと垂れた状態から素早く身を起こすと、彼女の唇はさっきと異なる風に、次の勝負に向かおうとする意思をたたえて、キュッと固く結ばれていました。
潤んだ目はまだ少し赤いものの、少し垂れた目もとが可愛らしいもとの彼女の表情に戻っています。
その顔を見て、ミツは心から嬉しそうな顔をし、リューカはやれやれとばかりにため息をつきます。
ケビンはタカナに背を向けると、空を見つめポツリつぶやきました。

「若き者は挫折を乗り越え、次の勝負へと誘われる。これぞ、青春だ…」
「ケビンさん?何ですかそれ」
「いいんだ。アイツのワールドにいちいち付き合ってたら骨が折れる」
「はぁ。さっきはスゴくいい事言ってましたケド」
「当たり外れがある」

天を仰ぐ詩人をよそに、ミツとタカナのふたりはじっくりとタカナの話を訊くことにしました。
何が先のバトルでタカナを苦しめたか…その元凶を明らかにし、対策を練るために。
そこで浮かび上がってきたのは、バトル初心者がしばしば突き当たる壁が、先のバトルで悪さをしたということでした。

「ふむ。ローラーが倒せない、か」
「そうなんです!ローラーって、どこから出てくるか予想がつかなくって…わたし、テンパっちゃって」
「タカナちゃんの戦績は1キル5デス。うち4デスがローラーによる、と」

ミツはえんじ色の表紙の小さなメモ帳に、さらさらと字を走らせていきます。
Suckersの指導係を買って出ている彼女は、メンバーの細かい戦績や立ち回り、その他の情報をメモしてまとめているのです。

「いちばん最初は、その…高台に登ってみたくて。登ったところで横から来たローラーに一瞬でキルされちゃいました。ゴメンナサイ」
「初めてのBバスパークだもんね。気持ちわかるな~」
「初動で高台に登るなら、レールのない丸いボディの方から登るのがオススメだ。敵にローラーが居るなら壁にセンプクして様子を見るのを忘れるな」
「はいッ」
「リューカみたいなチャージャーが居たら、飛び出した敵をあっさりやっつけてくれることもあるしね」
「…そのあと、復活してから1回だけキルが取れました」
「キルした相手は覚えてるかな?」
「シューターでした。わたしがハーフパイプから攻めていったら…背後が取れたんです」
「ふむ。こっちの陣に攻め込もうと壁を塗っている奴を背後から倒した。ランク相応のアマいシューターだな」
「今日始めてのキルだったので、嬉しかったです」

はにかむタカナは自分の相棒…膝の上に抱えたスプラシューターのブキケースに視線を落としました。

「問題はそのあと」
「はい。一人キルしたから、敵陣が手薄になったと思って…急いで攻め込みました」

バトル参加者に配布されるモニターを3人の真ん中において、タカナは自分の辿った経路を指でなぞります。
上から見ると人工衛星のような形をした高台と足場の横をすり抜けて、クォーターパイプを登り、大口を開けた魚とも鳥ともつかないかたちのボウルが見えるところまで来て、指が止まりました。

「ここ!ここでやられたんです。ヤシの木の植え込みのそば」
「どっちからやられた?」
「左です」
「つまり、植え込みのカゲのところに敵がいたってワケだね」

ミツが慣れた手つきで、タカナの指が停まったところに目がバッテンのイカのマークを、植え込みのカゲに青色のイカのアイコンを、それぞれ配置します。

「それじゃ質問。なんでここに敵が居たと思う?」
「えーと…?たまたま、鉢合わせたとか」
「ブブー。ここに偶然敵が居ることはまれだよ。Bバスパークで敵陣に向かう方法は3つ。おさらいしてみよう」

ミツの指が自陣スタート地点にジャンプし、3本のルートを示します。

「ボウルを抜けて高台にまっすぐ向かうルート。タカナちゃんが使った、ハーフパイプを抜けていくルート。最後に左手の細い道を使うルート。そして、どの動線にも敵が居た場所は重ならない」
「ホントだ…!」
「つまり、敵がその場所に居る必然性があるはずなんだ。わかるかな」
「わたし、待ち伏せされてたってコトですか!?」
「ピンポーン!敵はタカナちゃんからキルを取るためにそこに居たってワケだね」
「うわぁ。いじわる…!」
「そう言ってやるな。奇襲はローラーの基本のキだからな。シューター相手に正面からの撃ち合いは出来ないから、ヤツらはこうやってキルを取るしかないのさ」

そして、タカナは自分がやられた他の3つのシチュエーションを述べていきました。
敵陣付近で前線を守っている味方のところへ向かいつつ塗り残しをフォローしていたら、敵のインクにローラーが潜んでいたこと。
中央広場でN-ZAPと交戦中、キルを取れると思ったら、高台からジャンプしたローラーにフルスイングで丸太をぶつけられたこと。
スーパーセンサーを発動されたので、自陣に戻ろうと慌てて壁を塗っていたら、背後から轢かれたこと。

「…冷静に思い出したら無性に腹が立ってきました…!特に高台からジャンプしてきたやつ…!許せないッ!あと少しでキルが取れそうだったのにぃ」

積み重なる「やられ」エピソードにカッカするタカナでしたが、ミツは鼻歌混じりに軽快にペンを走らせています。
リューカはどれもよくあることと聞き流しながら、リッター3Kのタンク部分を布で拭いています。

「…ふむふむ。ゆっくり思い出したら、だんだん共通点が見えてきたね」
「そうですか?全部やられ方がバラバラだと思うんですけど。だから、ローラー対策ってムリなのかなって」
「少し視野を引くと、隠れた共通点があるんだ。…ちょっと難しいかな?」
「タカナに難しければ、あいつらを誘ってやったらどうだ」

リューカは、時間を持て余し、アイス片手にバトルを観戦している男性陣を指差しました。
ミツが、お~い、という言葉とともに、手招きをして呼び寄せます。

「どうッスか?タカナちゃん、次は行けそうですかね」
「それはキミがこの謎を解いてくれるかどうかにかかっているのだよ」

気取って言うミツからメモ帳を受け取って、男性陣は3つのデスについて共通点を考えはじめます。

「…なるほど。言いたいことは分かった」

真っ先に答えを見出したのは、自身もローラーを扱うことがあり、経験量が圧倒的に豊富なケビンでした。

「さっすがケビン。他の二人はどうかな」
「わかんねッス」
「…」

ツルギはメモ帳をじっと見つめ、珍しく真剣な顔をしています。
いつも自分がバトルで考えていること…経験則と照らし合わせ、これらのデスがどうしてもたらされたかを考察しているのです。
ローラーにキルを取られないよう、自分ならどう振舞うか?
ミツの伝えたいノウハウは、自分とタカナの経験値の差の中に隠れているはず。
それを言葉にすべく、ことバトルに関してはなかなかに明晰な頭脳を使って、タカナの演じるシューターと、自分の演じるシューター…ひとつひとつのシーンの差分を取るように考えていきます。
そうすることで、すべてのシーンに関わる共通点が、ハッキリと浮かび上がりました。

「…そうかァ!そういうことだ。俺も分かったぜ。いつも考えてることじゃん」
「おお、ではツルギ君、回答をたのむよ」
「『ヒトの姿をさらしてインクを撃っている最中にやられている!』。これじゃないスか」
「正解!」
「えぇ~!?…それって、当たり前じゃあ…ナワバリバトルなんですから」
「ふっふっふ。ではここからは、この探偵ツルギが説明して差し上げよう」
「!?」
(なんだ、その気持ち悪いキャラは…!)

真ん中に躍り出たツルギは、ミツから気取った言い回しを引き継いで言いました。
面食らったタカナと、ドン引きしているリューカをよそに、ボーダーシャツの少年に不似合いなスポットライトが当たります。
舞台がBバスパークの中央広場へと転換し、タカナ嬢を相手取った、ツルギ少年のショーが始まりました。

「たとえば、味方が中央広場を制圧できたとする。誰かが高台に陣取って、低所も満遍なく塗られている。広場に敵はいない。さぁ、タカナ嬢ならそこからどう動くかな?」
「ええっと…中央広場が塗られているから、敵陣に攻め込みます」
「もちろんそれも有効だ。だけど、もう一つ選択肢がある。そのまま中央広場に居残ってもいい」
「で、でも。もう広場に塗るところは残っていないんじゃないですか?」
(…ノリノリだな、二人とも)
ナワバリバトルは敵より多くのナワバリを確保できれば勝ちである。故に現状が有利な場合、無理して攻め込む必要は無いのだよ」
「はぁ~…なるほど。有利なときは、無理して攻めなくてもいい」

未来の自分に言い聞かせるようにして、タカナはツルギの言葉を復唱します。

「ここで質問の相手を代えよう。ガッツくん」
「はいッ!!何なりと!」
「いい返事だ。ローラーにとって倒しやすいシューターとは?」
「え~っと…近くにいて、しかも自分のことに気付いてないシューターですかね」
「キミは敵が近くに居ないとき、どうする?」
「標的を決めて接近するッス!バレないように…」
「オーケー、上出来だ。ではタカナ嬢に質問を戻そう」
「は、ハイっ」
「彼の答えから、ローラーに決してやられない方法を考えてみたまえ」
「え、ええ~っ?そんなのありますか?」
「素直に考えてみれば、答えはすぐ分かるはずさ」
「う~ん…う~ん…」

タカナはガッツの言葉を反芻し、ローラーにやられない方法を考えはじめました。
それは裏返せば、ローラーがキルを取りに行くときの行動を、どこかで断つということを意味するはずです。
ローラーの近くにいて、自分が油断しているときはやられてしまう。
距離をとって闘っていても、標的として接近されれば、一撃必殺のローラーにはかなわない。
ということは。

「標的にならなければいい…?」
「ご明察!そのための手段は?」
「あっ。センプクしてればいいんだ…!」

タカナはごくシンプルな、しかし非常に効果的な、ローラーからデスを取られない方法にたどり着きました。
敵陣への侵攻をあきらめる代わり、ローラーによる突発的なデスを起こさずに、有利な状況を均衡させたまま時間を消化する方法です。
それは少しでも多くの陣地を塗ることにこだわっていたタカナには、盲点となっていた戦略でした。

「基本的に、センプクしている相手をローラーが正面から単独で倒すすべはない」
「でも、隠れてるうちに轢かれちゃったりしませんか?」
「センプク中は自由に間合いを取れるのだから、ローラーが塗り進んできたら距離を取って返り討ちにすればいい。敵の動きをしっかり見ておけば難しいことは何もないのだよ」
「はぁ~…。ナットクです」
「…ツルギの奴、気持ち悪い口調はともかく、話の持って行き方は上手い。ナンパ師なだけはある」
「ホントだね~。見直しちゃった」
「コラぁ、そこ!せっかく株が上がったとこなのに…!」
「お、素にもどったな?」

憑き物が落ちたツルギに代わり、またミツが議論の中央に躍り出ます。

「ちょっとだけ補足すると…もちろん敵は4人居るわけだから、こっちがセンプクしていても射程の長いシューターなんかが塗り返してくる。でも、ローラー単体だとツルギ君が言った通りで、手詰まりに追い込める」
「そう考えたら、簡単に優位に立てる気がしてきました…!」
「ローラーはシューターが居ないと活躍出来ないって言われる所以だね。もちろん他の仲間や、サブウェポン・スペシャルウェポンによって話は変わるけど」
「あとはもちろん、劣勢のときはいまの話が通用しなくなる。状況を打開しなければいけない訳だから、待ちという訳には行かない。クリアリングの上手さが物を言うから、初心者なら少しでも安全そうなところを塗って、スペシャルゲージを溜めておくことだな」
「あのう、わたし…」
「どうした?」

おとなしく議論を聞いていたタカナですが、突然下を向いて身震いし始め、隣に立つリューカを心配させます。
少しいっぺんに情報を伝えすぎたか、と思った矢先。

「今すぐ実戦で試してみたくて、仕方ないんですけどっ」

勢いよく顔を上げた少女が主張したのは、極めて前向きな提案でした。
モチベーションが完全復活したと見える力強い言葉に、メンバーは「おお~」と手を鳴らします。

「できれば…一人で行かせてください。さっきと同じ条件で、どこまでやれるか知りたいんです」
「ふっふっふ…そうこなくちゃね。もうバトルの参加の仕方は分かるね?」
「はいっ。バッチリです!」
「じゃあ、行ってらっしゃい!今度はわたし達も見てるからね」

Suckersの本日最初の活動は、もっとも幼いメンバーの奮闘を見守ること…となりました。

日はまだまだ高く、6人でバトルを満喫する時間はまだまだ残されているのですから、焦ることはありません。
バトルのマッチング案内所に向かった少女は、振り返らずに人ごみへと吸い込まれていきました。

「がんばれ、タカナちゃん」

(つづく!)

kotodamar.hatenablog.com