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アニメ「逆転裁判」から抜け落ち、かわりに得たものは何か

逆転裁判 ゲームと動画

アニメから抜け落ちるもの

逆転裁判 ~その『真実』、異議あり!~」の放映が、読売テレビ日本テレビ系列で2016年4月2日より開始されました。

同作は2001年に発売されたゲームボーイアドバンス用ソフト「逆転裁判」から始まるシリーズを原作とするアニメ作品。

2015年の東京ゲームショウで制作が発表され、原作ファンを大いに沸かせました。

www.4gamer.net

ちなみに、これまでに放映されたミステリーゲーム原作のアニメ作品としては、2010年に第一作が発売された「ダンガンロンパ」などがあるようです。

ミステリーゲーム原作のアニメということになると、話の筋はゲームからそのまま引き継いで作るということになりますが、ストーリーを忠実に再現すれば同じ面白さが引き出せるかというと、そうとは限りません。

ゲームはインタラクティブ(interactive、双方向的)な娯楽だと言われます。

これは映画などの他のメディアからゲームを差別化する上で重要視されてきたキーワードであり、ゲーム業界の方によって度々取りざたされてきました。

インタラクティブ(双方向的)とはどういうことか

端的に言えば、既存のメディアでは出来上がったコンテンツを一方的に享受することしか出来なかった受け手が、ゲームにおいてはその世界に対して働きかけ、リアルタイムに反応を得ることが出来るということです。

どんなゲームもコントローラを通じて入力し、キャラクターを操作したり、選択を行うことで進展するということが、他のメディアと決定的に異なるのだという考え方ですね。

もちろん、映画においてはコメディシーンで観客が笑い声を上げたりとか、目を瞑って感傷に浸るといった仕草によって、受け手がその世界に対して働きかけることはあるでしょう。

また、音楽でも録音されたものを聴くときは受動的ですが、ライブに参加するときはインタラクティブになります。

小説を読むときは、途中で読むのを中断したり、読むスピード、ページをめくるスピードによって体験が変わります。

ですが、これらのメディアより、入力機器とコンピュータを備えたビデオゲームは、一般にインタラクティブ性が高いと言われています。

その強みを生かしたゲームデザインの重要性をプロ開発者が論じている例としては、下記の記事などをごらんください。

・「音楽」はゲームに命を与える――任天堂サウンドはこうして作られた

逆転裁判におけるインタラクティブ

インタラクティブ性は、逆転裁判というゲームの構造をつくる上でとても重要な役割を果たしています。

(以下はファンにとって既知の内容ですので、ご存知の方は見出しだけ読んでいけば理解して頂けると思います)

1. プレイヤーの「気付き」がストーリーのエンジンである

逆転裁判は、法廷で証人の「証言」を聞き、弁護人であるプレイヤーがそれに対する「尋問」を行います。

尋問では、新しい事実を引き出すために以下の二つのコマンドを駆使していきます。

コマンド 説明
ゆさぶる 証言に対して詳細を尋ね、新たな事実を引き出す。質問の内容を複数の選択肢から選べることもある
つきつける 手持ちの証拠品を使って証言の矛盾を指摘する。適切な証拠品をつきつけることが出来れば、状況は大きく進展する

プレイヤーはそれまで調査や審理で手に入れてきた証拠品のことを覚えていますから、証人の証言を注意深く聞いていると、「おかしいぞ」と気付く場合がたびたびあります。

そんな時は、証拠品を「つきつける」ことで、証人の発言について追及することが出来ます。

証言と証拠品を照らし合わせみずから証人のウソを見やぶる快感と、つきつける際の「異議あり!」という演出、新事実が明らかになるワクワク感がどっと押し寄せるのは、ゲームをプレイしていて一番気持ちいい瞬間といえます。

2. 体験がプレイヤーごとにカスタマイズされる

逆転裁判をプレイするとき、矛盾を見つけたらすぐに証拠品をつきつけても良いのですが、

好きなキャラクターが証言している時はあえて「ゆさぶる」を繰り返し、やり取りを引き伸ばすといった楽しみ方も出来ます。

また、事件の調査を行う探偵パートでは、好きな場所を調べたり、好きなタイミングで関係者に証拠品を見せて意見を聞くことが出来ます。

事件解明に関係のない行動をして、意外なテキストが隠されているのを発見したりする楽しみもあります。

3. プレイヤーの閃きがないと、明るみに出ない事実もある

逆転裁判では各ストーリーのラストで、無罪を勝ち取った依頼人やその関係者から、「事件の最後に残った疑問」について尋ねられるというお約束があります。

プレイヤーは証拠品によって疑問を氷解すべく考えを巡らせますが、つきつけるチャンスは一度きり。

間違えると事実が一つ隠されたままストーリーが終わることもあり、ちょっと残念な気分になります。

成功すれば、事件の最後のピースをプレイヤー自身がはめるという体験によって、素晴らしい読後感とともに話を締め括ることが出来るようになっています。

一度きりのチャンスをつかんだプレイヤーへのごほうびは、いずれもそのストーリーを象徴する渾身の事実が用意されており、「このラストの作り方が大好きだ」というファンは少なくないことでしょう。

アニメ「逆転裁判」から抜け落ちたもの

要は、逆転裁判に楽しさを与えているこれらのインタラクティブな要素を、アニメでは表現することが不可能なのです。

ストーリー・世界観・キャラクター・アニメーションといった要素は輸出できても、ゲーム特有のインタラクティブ性はアニメに適合しません。

制作側も、もちろんそのことを承知の上でプロジェクトを発足させたはず。

逆転裁判をアニメにすることで失う魅力は何か、代わりに得られる魅力は何か」についての議論を重ねたはずです。

アニメ「逆転裁判」が得たもの

ここからは、実際にアニメを視聴して「いいなぁ」と個人的に思った点に関するメモになります。

アニメ作品としての良し悪しについては、普段アニメをあまり見ないので分かりません。その点について知りたい方は、他のところで情報を集めて頂ければと思います。

舞台に立体感が生まれ、キャラと舞台が協働している

逆転裁判」における世界像は、法廷内にせよ現場にせよ、一つ一つの場所を決まった位置のカメラから切り取った背景に過ぎませんでした。

逆転裁判の世界は背景のみによって表現され、しかもキャラクターがそこに働きかけるということは基本的になかったのです。

せいぜい物が増えたり消えたり、という程度のものでしたし、逆転裁判5でカメラが動くようになったとはいえ、「脱出ゲーム」的な発見の要素を得たにすぎず、基本的にはそれまでの延長です。

アニメでは、係員が矢張を椅子に座らせるシーン、証人席に詰め寄って尋問を行う亜内検事やなるほどくん、といった点において、「舞台とキャラの関係性が変わった」ということを実感できます。

法廷の構造はCGで表現されていますが、それは単なる背景でなく、キャラクターが立ち回る舞台として用意されているのです。

キャラクターモーションのみでストーリーの展開や登場人物の心の動きを表現し、尖ったエンターテインメントを提供していた逆転裁判とは違い、

舞台があちこちから映し出され、カメラワークによって受け手を楽しませる形に変化していました。

もちろんアニメなんだから当たり前なのですが、「こういう風になるんか」という新鮮さを感じずにはおれません。

幕間がしっかり描かれている

先述の事情によって、逆転裁判の舞台は非常に限定された場所にとどまっています。

事務所から現場、現場から留置所への移動シーンが描かれることはありません。固定的な背景で表現できないシーンはゲームの仕組みに乗らないからです。(なおこの点は、スピンオフである『逆転検事』においてクリアーされました)

アニメでは、なるほどくんの自宅や裁判所への出勤シーンなど、スタッフが積極的に幕間のシーンを描くことによって、世界やキャラクターに対するイメージを得ることの出来る工夫が見受けられました。

とても短い放映時間の上、ゲームのプレイヤーと違いテレビにかじりついて視聴する受け手ばかりではないわけですから、ちょっとしたシーンで気持ちをつかむことが大事になってくるでしょう。

話の筋はそのままに、コンパクトにする工夫が随所に

アニメ「逆転裁判」は一話あたり20分強。「はじめての逆転」以外のエピソードは3話かけて展開しました。

個人差もありますが、原作は一つのエピソードあたり2~3時間くらいのプレイ時間がかかりますから、体験のスピードは倍以上速いと言えそうです。

一度ファンになってしまえば気にもなりませんが、その世界の全体像をつかみ、好きになるまでのタイムラグがどの程度かというのは、出会いが成就するかどうかの分水嶺となります。

ゲームには「時間を奪われている」感じるけれど、サクサクと進行する上ほかの作業と並行して視聴できるアニメならば、逆転裁判に興味を持てる新規層というのもいるはず。

そういった層に作品を届けるという意味で、アニメ化には意義があると思います。

アニメを視聴すると、原作の肝心な魅力を損なわないように、ジェンガのようにシーンをうまく除いて作られている印象を受けました。

「展開が速すぎる」という声も多いようですが、原作からのコンパクト化という意味ではなかなかうまく行っているように感じました。

原作の第3話「逆転のトノサマン」において、荷星三郎に「栄光の足跡」をつきつけた反応など、話の筋には関係しないがキャラクターの掘り下げに有効と思われるシーンは積極的に取り入れているのも、個人的には評価できるポイントです。

(単にわたしが原作のそのシーンが大好きだったので、アニメに出てきたので嬉しいというだけですが)

まとめ - 原作ファンは新鮮な気持ちで。初見の人は…?

原作ゲームの面白さのかたちに囚われていると、アニメスタッフの凝らした工夫に目が行かなくなります。

原作と同質の楽しさがアニメにも随所に入っていますから、それを見つけ出して楽しむのがオススメです。

一方、アニメから入ったという方の反応についてはよく分かっていません。やはり展開が速すぎるし、ついていけないという意見が多いのでしょうか。

先述した通り、アニメ化したことの価値はそこで決まるようにも思いますが…どうなのでしょうね?