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MiitomoというSNアプリを事始めに、任天堂がやろうとしている事

書き手と目的について

わたしはWiiU3DSを持っている任天堂フリークで、今後のスマートデバイス向けアプリについても興味津々である、という属性の人間です。

そんなわたしが、どんな考えの下に任天堂がこのアプリを真っ先にリリースした(のであろう)か、ということに関してあれこれ書いてみようと思います。

以下に記すいずれの方でも読めるよう書いていきます。

  1. このアプリを遊ばれている方
  2. Miitomoを遊んだことがないが、任天堂スマートデバイス事業に興味がある方

SN(ソーシャルネットワーキング)アプリとは

App Storeを見ると、Miitomoのカテゴリは「ソーシャルネットワーキング」と設定されています。

いわゆるSNSソーシャルネットワークサービス)のインタフェースを提供するアプリ、と説明しておおよそ間違いはないでしょう。

Miitomoと同様の「ソーシャルネットワーキング」カテゴリに属するサービスには、言わずと知れたFacebookTwitter、LINEなどが存在します。

この記事内では、Miitomoや既存のSNSアプリをまとめて「SNアプリ」と称させていただきます。

まずはMiitomo配信の概観についてみていきましょう。

SNアプリのリリースは、王者のスタンスを崩した結果?

任天堂スマートデバイス向けゲームを供給すると初めて公式に発言したのは、2015年3月17日の任天堂・DeNA業務・資本提携記者発表会においてでした。

(公式の映像はもう存在しないようですので、上記リンクはニコニコ動画の映像に飛びます)

それまで任天堂は繰り返し、「弊社は得意なことを追求する」「競争過当な分野に参入せず、常にブルーオーシャンを探し求める」ということをアナウンスしてきたし、基本的な打ち出しはモバイル展開の発表以降も変わっていません。

認識が正しいかわかりませんが、「ゲーム業界の王者」であり、良くも悪くも「横綱相撲を取る会社」という世間的なイメージがあるように思います。

そういう背景がある中で、ゲームファンから投資家まで、任天堂の新たな一歩には注視されている方が多いはずですが、

まず踏み出した先が「SNアプリ」だったということは、必ずしも納得感のある選択ではなかったようです。

長年得意としてきたゲームジャンルの一つでなく、モバイルアプリとして代表的といえるソーシャルネットワークサービスをまず開発する選択をした任天堂

それは「得意なことからいったん距離を取る選択」であり、「すでに成熟した分野に後から乗り込む決断をした」とも取れると思います。

実際、Miitomoのサービス内容が初めて明らかになった時には、「任天堂らしさ」に欠けるサービスとして受け止め、失望や戸惑いの声を上げた方が少なからずいたようです。

実はわたし自身も、あまりピンと来ていませんでした。

色々な方が、アプリ市場に切り込む先鋒としてこのテーマを選択した理由を探っていたと思います。

2015年10月29日に任天堂の経営方針説明会でMiitomoが発表された時には、「ネタふりコミュニケーションアプリ」という呼び方で紹介されていました。

その際、他のSNSとの棲み分けという観点で「自分から積極的な情報発信をしない層を取り込むことを狙っている?」といった分析をされている方がおりました。

しかしアプリが実際にリリースされ、情報が拡充されたいま、もっと違った観点で解釈をすることも可能になったように思います。

ここからはMiitomoの実際のあそびかたを一部紹介しながら、SNアプリとしてどんな特徴と狙いがあるのかを明らかにしていきましょう。

Miitomoのあそびかたと、SNアプリとしての差別化戦略

Miitomoは、自分にそっくりの顔を持つ「Mii」を介し、フレンドとのコミュニケーションを楽しむアプリです。

ユーザーがMiitomoで情報を送り出す方法には、大きく3つのかたちがあります。

1.自分のMiiからの質問に答えてあげる

じつはMiitomoにおいて、もっともユーザーに対して貪欲に情報を訊いてくるのは「ユーザー自身のMii」です。

ユーザーの分身であるMiiは「自分がニセモノと思われないために」ユーザーのことを知りたがっていて、常に「質問したい」心理状態にあるようですから、

ユーザーはMiiが一番欲している「自分の情報」をどんどん答えてあげることで、Miiを喜ばすことが出来ます。これがプレイを促すエンジンになります。

その辺りのプレイ感については、秀逸な言い回しで紹介されている記事がありますので、是非そちらをご覧ください。

yamayoshi.hatenablog.com

この答えのことを「アンサー」と言いますが、Miiは手に入れたアンサーを他のユーザーに勝手にどんどん広めていきます。

2.フレンドのアンサーに反応してあげる

主に1.の方法で集められたフレンドのアンサーは、ゲームを起動したユーザーの下に届けられます。

ユーザーは面白いアンサーに対して「ハート」をつけたり、コメントをすることが出来ます。この点はTwitterFacebookとよく似ています。

3.フレンドのMiiからの質問に答えてあげる

時には、部屋にやってきたフレンドのMiiから、二人だけがアンサーを共有する秘密の質問が投げかけられることもあります。

あえて対比すれば、TwitterのDM、Facebookのメッセージ、LINEの個人チャットに対応する機能でしょうが、用途は全然違います。

この機能が他のSNアプリと異なることは、この質問が投げかけられるタイミングは「たまたま」そのフレンドのMiiがユーザーの部屋を訪れているときに限るということと、

内容は予め決められたものから選択され、フレンド自身が質問内容を決めるものではないという点です。

フレンドの意外な一面を垣間見る目的の質問が色々と用意されていますから、手軽に安全に(?)、フレンドとの仲を深める機能になっています。

あるフレンドのための情報が、そのフレンドの知らないタイミングで生み出されるというのがユニークなところですね。

Miitomoの差別化戦略

以上のコミュニケ―ション方式から、Miitomoは連絡用のツールとして使うことは出来ず、多くのSNSがもつ実用性や利便性は排除されています。

一方で、このアプリにユニークないくつかの強みがあります。

  • 架空の存在であるMiiがどんどん質問を投げかけることにより、ユーザーが能動的に発言しなくても、情報を引き出す力が持続すること
  • ゲーム的なごほうび要素や、合成音声とアニメーションを使った演出が楽しめること
  • 質問内容が制約されていることから、多くのSNSにあるトラブルのリスクが一部存在しないこと

なお質問の内容は「わたしが喜ぶことは何だと思いますか?」などユーザーの人格に踏み込んだものも多く、フレンド同士はもともとそれなりに仲の良いトモダチであることを前提に作られています。

差別化戦略」と書きましたが、「FacebookともTwitterともLINEとも違う新しいSNアプリを作ろう」という見地に立ってサービス内容を組み立てたというよりは、

ソーシャルネットワーキングの面白さは何なのか」任天堂なりにブレイクダウンしていった結果、自然と差別化されていたというような経緯ではないかと思います。

任天堂のつくるアプリが満たすべき条件

では、このようなサービスが、任天堂のアプリ第一号として選ばれた背景はどのようなものでしょうか。

何れもわたしの推測ですので粗い内容になりますが、テーマ選びの際にどんな条件があったであろうか、これは確かだと思うものを列挙してみたいと思います。

1.スピーディに開発できるサービスであること

任天堂はもともと、「2015年内」の第一号アプリリリースを目指していました。

結果的にMiitomoのリリースは2016年3月に延期されたわけですが、開発の規模があまり大きくなり過ぎないサービスであることは考慮されていたでしょう。

2.ビデオゲームを日常に肉薄させるプラットフォームを活かすこと

任天堂は「スマートデバイスには、家庭用と同じゲームを出さない」ことを明言しています。

端的には、プラットフォームが違えば最適なゲームの形も異なるというのがその理由だそうです。

ですから、スマートデバイス向けのゲームを開発する際には、そのプラットフォームの特徴を活かそうと考えているはずです。

スマートデバイスの特徴を引き出そうと考えたとき、かならず考慮されるであろうことは「日常的に手にするデバイスである」ということでしょう。

たくさんのスマホゲーム会社が「日常に溶け込むゲーム作り」を目指すという理念を掲げていますし、スマートデバイスが「日常のなかで、短い時間で遊ばれるゲーム」を供給するのに向いたプラットフォームであることは証明されています。

ゲーム専用機以上に日常に溶け込めるプラットフォームをどう活かすかについては、かならず議論があったはずです。

3.ゲーム専用機ビジネスが持つ価値に寄与すること

これは任天堂DeNAの業務提携記者発表会や、その後の経営方針説明会などで繰り返し述べられてきた内容です。

任天堂スマートデバイスに主戦場を移すという選択をした訳ではなく、ゲーム専用機ビジネスとスマートデバイス上のビジネスが相乗効果を生む形を追求していますから、

従来のゲーム専用機ビジネスが持つ価値に対し、何らかの形で寄与するサービスであることは重要であったはずです。

さて、以上を踏まえたとき、Miitomoはどうして「出したい」アプリなのでしょうか。

「Miitomoが良い」と考える積極的理由

これらの条件をMiitomoが満たしているかを考えたとき、1と2については申し分ないと言えるでしょう。

1.機能を絞り込んだコンパクトなアプリですし、2.SNSという日常生活と相性の良いサービスを提供します。

一方、3.については少し踏み込んだ考察が必要です。

実は、この条件を満たすのかどうかを考えた先に「任天堂がMiitomoを出したかった」積極的理由が見えてくると考え、わたしはこの記事を書いてみたくなったのです。

「現実は仮想よりエラい」という価値観を転換する狙い?

miitomo.com

Miitomoのプロモーションでは、「トモダチのこと、ちゃんと知っていますか?」というキャッチコピーが、公式ホームページや、App Storeのダウンロードページ等で使われています。

わたしはこのキャッチコピーが、Miitomoが起こそうとしているイノベーションを包み隠さず表現している、と感じました。

イノベーションの定義には様々ありますが、任天堂の岩田前社長は「既存の価値観では不可能と信じられていることを実現すること」と説明されていました。(出典がWebでは見つからなかったため、細かい言い回しが違っているかもしれません。あしからず)

任天堂のアプリ第一号としてのMiitomoが目指すところは、四半世紀以上の長きに渡り「ゲーム」を取り巻いていたある固定観念を、スマートデバイスの力を借りて覆すことにあるのだと思うのです。

ゲームファンの皆さんは、「現実の生活や人間関係がいちばんエラい、ゲームが現実を超えることはない」という価値観があることを、これまで何となく感じたことがないでしょうか。

言い換えれば、「現実(リアル)」が上、「仮想(バーチャル)」が下という思想です。

もちろん、日常生活あってのゲームですから、「ほとんど正しい」と言える命題だとは思います。でも、ありとあらゆる場面で成りたつ優劣なのでしょうか?

さておき。

Miitomoで題材にされている「トモダチ」というのは言うまでもなく、もともと現実の概念であり、替えの効かない尊い存在であり、日常を共にする親しい存在のことであるという共通理解があります。

当然、誰もが「わたしはトモダチのことをよく知っていて当然だ」という自負があるはずで、そこにリアルの繋がりより格下の存在であるはずのゲームの側から「トモダチのこと、ちゃんと知っていますか?」とは何事でしょうか。

そういうストーリーを付けて考えると、このキャッチコピーってけっこう野心的なものだと思うのです。

ゲームによってのみ引き出せる、量・質にすぐれた情報がある

キャッチコピーから直接読み解けることは、「Miitomoによって、現実のコミュニケーションだけでは知る事のなかったトモダチの情報を得られるようになる」と任天堂が考えているということです。

忙しい時期でコミュニケーションに時間が割けないときも、自分の代わりにMiiが質問を投げてくれたり、

性格的に自分の口からはなかなか言えない、だけど普遍的に誰もが気になるような質問をしてくれたりと、すでに可能性の片鱗は見えています。

Miitomoが持つ可能性は、仕様の改善や質問項目データベース・質問内容決定アルゴリズムの整備しだいでどんどん広がっていくように思います。

自信をもって提供できる構造の遊びを提供し、サービス改善のサイクルを回していくことで、Miitomoを介したコミュニケーションはどんどん進化し濃密になり、

いつか仮想メディア上のコミュニケーションが現実をより良いものへ塗り替えていく瞬間を見ることが出来ると、任天堂は考えたのではないでしょうか。

仮にMiitomoがそのイノベーションを起こすことが出来れば、Nintendoブランドの価値はいっそう高まり、「これからも取り組んでいく」と明言しているゲーム専用機ビジネスへの期待感をも高める効果があると期待されます。

(もちろん、何をもって「Miitomoのコミュニケーションへの寄与」を測るか、という課題もあるわけですが。)

また、このイノベーションを実現することは、任天堂が2014年から掲げている「人々のQOL(生活の質)を楽しく向上させる」という企業目標にも明確に繋がり、

「ゲームを楽しみながら、トモダチのことをよく知る」ことで「人々のQOLの向上につなげる」ねらいがあるとも推測されます。

他のゲームジャンルにも考えられる、同種のイノベーション

同様に、「野球ゲームより、本物のスポーツの野球の方が面白い」とか、「ゲームの世界の冒険より、現実の旅行の方が意義がある」といった「現実 > 仮想」の思想は様々なところに表れてきました。

こういった固定観念に対して「こういう点ではゲームの方が有利なこともある」と提言したり、「現実にマウントしたゲームを展開し、現実の持つ価値を仮想の世界から押し上げていく」というような試みをするには、実はスマートデバイスは非常に向いたプラットフォームなのではないでしょうか。

任天堂スマートデバイス向けゲームの第二弾として開発している「Pokémon GO」は、現実世界の中に潜むポケモンを捕まえ、交換・対戦を楽しむゲームだということですが、

これは、現実の「お出掛け」や「散歩」や「旅」に、仮想の遊びをプラスしたゲームであると考えることが出来るでしょう。

スマートデバイスの持つ高性能の位置情報機能やBluetoothを活用することで、今まで実現できなかった遊びが楽しめるようになりそうです。

もちろんデバイスの力だけでなく、Ingressを開発したNianticという位置ゲーの先駆者の力を借りることが出来たから、実現に至ることが出来たのでしょう。

つまるところ、「ソシャゲ」というスマートデバイス向けゲームにおいて主流の構造であったり、「ガチャ」を中心とした利益構造といった既存の方式に任天堂がどう取り組むかという視点だけを持つよりは、

これまでゲーム専用機で出来なかったことが何であり、そのうちスマートデバイス上でなら出来るようになることは何なのか、という見方をした方が、開発の実態に即すのではないかとわたしは思っています。

その観点から「ビデオゲーム専用機の時代から変わらずあった既成概念を次々に打ち破っていく時代の訪れを、Miitomoが告げるのかな?」という期待感を持ったので、それをシェアしたいと思い、この記事を書いた次第です。

さて、みなさんはMiitomoを遊びながら、トモダチのことを知ることが出来ていますか?