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「ぎんぎつね」と「ほいくの王さま」の世界 隔たりとシンパシーの縁

漫画と生活

二つの異なる主体を描く「通じ合い」の漫画群

落合さより先生は、2008年にウルトラジャンプの読切「ぎんぎつね」でデビューし、

現在(2016年2月)はウルトラジャンプの同作および、モーニング誌にて「ほいくの王さま」を同時連載している漫画家です。

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今回は、この二つの漫画作品の内容を結び付けるという観点で紹介してみたいと思います。

特に「やさしい」漫画が好きな方は、チェックしてみると良いかもしれません。

ぎんぎつね - 人間と神使の心の繋がり

神や妖怪の類が登場するような作品を読むと感じることですが、「目に見えないもの」を尊重する価値観は、何とも言えずやさしいものです。

ぎんぎつねの主人公・冴木まこと(♀)は、冴木神社の15代目の跡取り。古くから神社に住まう神使である狐の「銀太郎」を見ることが出来ます。

まことは小さい頃から銀太郎と接しているため、風体の立派な彼を畏れ敬うようなことはなく、同級生のための「占い」に銀太郎の力を借りるなど、良いように関係を築いています。

人間と神使という存在としての違いがあるゆえに距離は近づきすぎず、だけれども心の奥底では通い合うものがある、そんな二人を中心に据えたストーリーです。

舞台は女子高や、街のさまざまなスポット

まことと銀太郎を中心とした物語は、神社の中だけで完結する訳では無く、基本的にまことの行動範囲が話の舞台になります。

彼女の通う女子高が舞台の話もあれば、友達と遊びに行く話、またまことが神社の跡取りであるということを活かした、あまり知識のない友達を神社に連れて、作法などについて教える話もあります。

はじめこそ「動物漫画として楽しんでください」という側面のあった本作ですが(巻末漫画より)、作者自身がもともと神社の文化に通じていたこともあり、神道の知識を気軽に詳しく読ませてくれる「神社マンガ」になっていきます。

「対の神使」を活かしたストーリーづくり

神社に行くと狛犬が必ず対で置いてありますが、神使というものは一つの神社にふたり(二柱)存在するものであるようです。

狛犬は神使ではないらしいですが、例として分かりやすいので挙げました。)

ぎんぎつねでは、この「設定」を非常に上手く取り入れてストーリーを作っています。

銀太郎と対の神使である金次郎は、物語の100年ほど前に冴木神社を去っており、銀太郎はそれ以来ひとりで神社に住まっています。

銀太郎と金次郎は、年齢や背格好も近く「対」として非常に様になる組み合わせだと言えますが、

その金次郎のポジションをあえて空けておいたところへ、訳ありの居候としてやってくるのが神尾神社の「ハル」。

ハルは80歳と神使としてはまだ「子ども」の部類であり、身体も小さく口調も子どもっぽいもので、大人の銀太郎とはまったく釣りあいが取れていません。

ある種、画としてはよろしくない銀太郎とハルのアンバランスさが、漫画作品として見た時には非常に「面白い」取り合わせとして活きてくるのです。

例えば、ハルは「悟」という男の子と一緒に冴木家へやってきますが、

神尾神社の跡取りである悟は、作中に登場する中では二人目の「見える」人間であり、まことと同世代ながら非常に大人びた少年として描かれます。

ハルは悟を生まれた時から可愛がっており、ハル本人の子供っぽさも相まって、二人の関係は非常に親密。

神使と人間という違いがあるものの、それぞれが対等な存在として関係を築くなか、成長過程にあるふたりが時にはぶつかり合う、非常にセンシティブな物語が綴られます。

それは、可憐だが向こう見ずなまことと、面倒臭がりだが大人の判断のできる銀太郎のつくるストーリーとはまったくベクトルが異なります。

違った性質を持つ二人のキャラクターが、おなじ冴木神社の神使として収まっているのが、絵の上でも物語上も、極めて面白いところなのです。

美麗なカラー絵にピンと来たら、脈アリ!

「ぎんぎつね」の表紙はたいへん美麗で目を引くものなので、書店等で見かけたらぜひ手に取ってみてください。

何となく「キュン」と来るものがあれば、ぜひとも中身を読んでみましょう。

個人的には、2巻まで読んでもらうと、良さをしっかり感じてもらえる可能性が高まると思います。

ほいくの王さま - 保育園を舞台に、大人と子供の触れ合いを描く

「ほいくの王さま」は2015年6月にモーニング誌で連載開始された、保育園を舞台とする漫画です。

本作の特徴は、期せずして「男だけの保育園」が舞台となること。

保育の世界においてはマイノリティである、男性保育士だけで構成された保育園です。

時流を取り入れているのも特徴で、今風の「キラキラネーム」の子どもも登場します。(あんまり極端なのは居ませんが…。)

また、モーニングにおいて歓迎されやすい、ある特定の職業人のリアルを描いた「職業系」のエッセンスを取り入れています。

第一話では、新卒で就職した保育園で理想を叶えられなかった主人公の保育士・福田育の悩みに焦点が当たっていますが、

その後は様々な親子の問題と、そこに保育士としてどう関わっていくかという面が強調されていきます。

ただどちらかと言うとこの漫画の見所は、手遊びやお昼寝など、日常的な活動で目いっぱい可愛らしさを振りまく子どもたちの姿であり、

彼らを取り巻く環境を作り、日々世話をする保育士たちが時折作り出すやさしいムードの方かな、とも思っています。

「ぎんぎつね」の流れを汲んで読み解く

子どもたちも、大人にとってはその思考や気持ちを想像することしか出来ない存在であり、

七つまでは神のうち」という言葉もあるように、大人である保育士や親とは隔てられた存在であると言えそうです。

我々とは異なる主体である子どもたちが、どんな瞬間に大人と共感し通じ合うのか?というのが主題であり、その瞬間の描写が醍醐味の作品とも言えそうです。

その観点から見ると、「ぎんぎつね」を描いた落合さより先生が描くということに、大いに期待できる題材です。

これから期待したいこと

ウルトラジャンプでの月刊連載から、新たに週刊連載を始めたということで、作者にとってもチャレンジに違いない本作ですが、

週刊ペースでの話作りに適応していくという課題もあるでしょうし、まだまだ伸びしろがたくさん眠っているような気配がします。

例えば、キャラクターの登場ペースが割合ゆっくりだったぎんぎつねでは、一人ひとりのキャラクターの掘り下げが非常に上手く行っていましたが、

ほいくの王さまでは、メインパーソナリティとなる5人の保育士と大鳥園長が出揃うまでがずいぶんハイペースに進んだ感があります。

ですので、保育士たちのキャラクターの掘り下げという点が、これからなされていく必要がありそうです。

「戦隊もの」のような5色+1色のエプロンでキャラクターづけたというのは、全体のイメージ付けとして非常に効果的だった感がありますので、

これからは個々人について、キャラクターを掘り下げていくフェーズが重要になるでしょう。

密かにネーミングにもこだわりが見られ、保育士の名前をつなげると「あいうえお」になるという仕掛けもあったりします。

名前 頭文字 エプロンの色 エプロンのどうぶつ
及川有人 カピバラ
福田育 ライオン
東郷潮 ゾウ
藤絵利央 キリン
吉岡桜介 ハシビロコウ
大鳥教一郎 - パンダ

一コマの絵作りにも見所の多い本作ですから、挑戦的な要素が上手に噛み合い、漫画として面白みが増していくのを今か今かと待っているところです。

モーニングの2016年10号で「今週の1ページ」に選ばれたこともありますし、スポット的には目立った見所が出てくるようになってきました。

これからますます盛り上がりを見せていくのか、注視してみましょう。