FEにおけるクラスの効用 戦略のイロハから世代交代のドラマまで
多数のユニットをひと掴みにさせる「クラス」概念
SRPGであるFE(ファイアーエムブレム)シリーズの戦闘は、チェス盤のように区切られたマップ上に、
味方だけでも十数人、敵はボスとたくさんの一般兵からなる10~50程度の「ユニット」(駒)が配置され、
自軍、敵軍が交互に移動・攻撃等の行動を行うことで進行していきます。
プレイヤーは相手の行動を予測し、残HP、能力値、武器三すくみなどの要素を鑑みながら慎重に移動・攻撃を行います。
自軍のターンを終了し敵軍のターンが始まると、配置した仲間たちが敵の攻撃を退けるところを、固唾を飲んで見守ります。(敵ターン中、プレイヤーができることはありません。)
一人一人に個性と出自、人間関係や使命のある仲間たちにも関わらず、やられれば二度と生き返らないというシビアなゲームですが、
熟練したプレイヤーは、個々の能力値には大差ない敵軍をものともせず、
どんどん味方を配置・攻撃してひとりの犠牲も出さずに戦局を切り抜けることができます。(多くの場合)
SRPGのプレイ経験が無い方が、この種のゲームを遊んでいるのを見て「どうやって味方の行動を決めているんだろう?」と思われることがあるかと思います。
実は、少しでもゲームに習熟したプレイヤーは、第一に「クラス」によって互いの戦力を分析しているのです。
能力や使用武器に規則をもたらすクラスの例
敵、味方にかかわらず、すべてのユニットにはクラス(役職、称号のようなもの)が付いています。
このクラスの特長を理解することが、効果的な戦略を立てられるようになる第一歩と言えます。
1990年に発売されたシリーズ第一作のリメイク作品にあたる「新・暗黒竜と光の剣」のプレイ映像をお借りしました。
青みがかった色で示されたユニットが、味方のユニットですが、アイコンの異なる8人のユニットがいることがお分かりでしょうか。
ユニット名 | クラス | 特徴 |
---|---|---|
マルス | ロード | アリティアの王子。剣を使って闘う。村の訪問や城の制圧ができる |
ジェイガン | パラディン | 重鎮の騎馬兵。すべての能力が高いうえ強力な槍が使える。しかし成長はほとんどしない |
カイン | ソシアルナイト | 騎馬兵。移動力が高く、安定した能力を持つ |
アベル | ソシアルナイト | 騎馬兵。移動力が高く、安定した能力を持つ |
ドーガ | アーマーナイト | 守備力が高く、ロストするリスクが低い。ただし魔法攻撃には弱い |
シーダ | ペガサスナイト | 海などの地形を超えて移動できる。すばやさに優れるが体力が低く、弓に極端に弱い |
ゴードン | アーチャー | 弓を使い、2マス離れた敵への攻撃を得意とするが、隣接する敵には攻撃できない |
リフ | 僧侶 | たたかいはできないが、治療の杖が使える |
プレイヤーはゲームを始めると、城を海賊に襲われたタリスのシーダ王女の頼みを受け、いきなりこれらのユニットの采配を任されることになります。
プレイするうち、ジェイガン(パラディン)の持つ戦闘能力が圧倒的であることや、ドーガ(アーマーナイト)の受けるダメージが極めて小さいこと、
リフ(僧侶)やゴードン(アーチャー)を前線に置くと敵の斧兵から一方的に攻撃を受けてしまい良くないこと、
シーダ(ペガサスナイト)の機動力が高いからといって、やすやすと前線に出せばすぐやられてしまうことなどを学んでいきます。
ファイアーエムブレムでは同じクラスのユニットがどんどん軍に参加しますので、一度学んだことの再現性が高く、
身に付けたセオリーをあとのユニットの使い方に応用していくことで、よい戦い方を覚えていくことができます。
ソシアルナイトやアーマーナイトで前線を作り味方を防衛すること、僧侶やシスターなど回復系のユニットの安全確保には注意を払う事など、
クラスを基本文法とした考え方ができるようになっていきます。
とはいえ、クラスが絶対的な要素である訳ではありません。
例えば先述した「ソシアルナイト」のカインとアベルの間にも能力値の傾向の違いがあり、
力と守備に優れたカインを使うか、技と速さに優れたアベルを使うか、プレイヤーによって好みが分かれるところです。
差異をもったユニットのうち誰を育てていくか、使いながら決めていくのも楽しみの一つです。
クラスでわかるユニットの身分
主人公を表すクラス「ロード」の系譜
暗黒竜と光の剣に登場するマルスはじめ、ファイアーエムブレムの主人公のクラスは「ロード(Lord)」と相場が決まっています。
作品によっては馬にのった「ロードナイト」や、剣でなく斧を扱う「グレートロード」といった変化球もあるものの、
一部作品を除き、時代を通じて受け継がれてきた共通項です。
ロードは城門や玉座といった、敵ボスが守る拠点の制圧ができる唯一のクラスであり、
ロスト(HPが0になり死んでしまう or 戦線から去ってしまうこと)によりゲームオーバーになってしまう唯一のユニットでもあります(タイトルによって例外あり)。
GC「蒼炎の軌跡」の主人公であるアイクは少々特殊で、「レンジャー」という下級職で登場ののち、上級職へクラスチェンジすることで「ロード」になります。
これは傭兵見習いという低い身分から、歴史の表舞台に躍進することになる彼のドラマを、
ロードこそが歴史を変える軍を率いるという「お約束」を活かして演出したものと受け取れます。
王族に仕える「ソシアルナイト」と「パラディン」
小国の王族であるロードを闘いにおいて助ける存在として、「ソシアルナイト」と「パラディン」が脇を固めます。
ロードへの忠誠心を持った若い騎士として描かれることの多いソシアルナイトは、基本的にゲーム開始時に2人登場し、
それぞれ赤と緑の鎧を身に付けた、対極的な性格と、一味違う成長傾向の持ち主であることが多いです。
重鎮であるパラディンは、貴重な「銀の槍」を唯一扱うことができ圧倒的な攻撃力を誇るとともに、
ストーリー上もロードを補佐する存在であることが多く、経験豊富な歴戦の勇士として描かれます。
クラスを活用した「世代交代」の表現
面白いことは、若きソシアルナイトに闘いを経験させ地道に育てていくと、
やがてプレイヤーの目の前で「パラディン」への昇格を果たすことが出来るということ。
ファイアーエムブレムシリーズではレベルアップ時の能力上昇が確率的に決まりますが、とうに昇格済みのパラディンは老齢のため成長率が低く、
ソシアルナイトを苦労して昇格させた場合の方が、最終的にははるかに強力なユニットに育ちます。
明確な優劣のあるクラスを活かして新世代の台頭を表現するとともに、
手塩にかけたユニットが予め用意された実力者を追い抜いていくという、プレイヤーにとってこの上なく嬉しい「ごほうび」が待っているということです。
むろん、戦いの最中にロストしてしまえば、そのごほうびも味わえない訳ですが…。
貴族階級が導入されたことも
各国の思惑が絡みあったとりわけ重厚なストーリーが楽しめるSFC「聖戦の系譜」では、
政治色の強い時代背景を勘案して、クラス名に中世ヨーロッパの貴族階級の名称が多く使われています。
階級 | 意味 | クラス名 | ユニット例 |
---|---|---|---|
emperor | 皇帝 | エンペラー | アルヴィス |
queen | 女王 | クイーン | ヒルダ |
prince | 親王 | ダークプリンス/プリンス | ユリウス/リーフ |
duke | 公爵 | デュークナイト | キュアン |
baron | 男爵 | バロン | シャガール |
ただし、必ずしも設定上の称号と一致はせず、例えば槍専門の騎馬系ユニットの上級職である「デュークナイト」に就くキュアンですが、
彼はレンスター王国の王子であるため、実際にはプリンスという称号の方がふさわしいものといえます。
これまでの文法から大きく逸脱した「ファイアーエムブレムif」
FEシリーズ最新作である「ファイアーエムブレムif」は、美しい構造ながらも予想の範疇に収まりがちだったこれまでのシリーズから逸脱したクラス群を採用しています。
というのは、「白夜王国」と「暗夜王国」という二つの国家のどちらに付いて戦うかをプレイヤーが自ら選択するこのタイトルにおいて、
トラディショナルな日本を想起させる「白夜王国」側は、西洋的なイメージが強かった既存のクラスは一切登場せず、「侍」「巫女」「鬼人」といったクラスのみで構成されているためです。
とはいえ、以前のタイトルにおける基本的な考え方は変わらず通用します。
武器間の優劣を決める「剣・槍・斧」の3すくみは「刀・薙刀・金棒」で置き換えられますし、戦略の組み立ては似通っています。
これまでのシリーズを遊んでいた方は容易に知識を流用できますし、「if」から初めて遊ぶと言う方でも、要素が多すぎて混乱するということの無いように作られています。
「ファイアーエムブレム 覚醒」のヒットで、3DSのタイトルからファイアーエムブレムに触れたという方は多いと思いますが、
クラスの考え方は過去から大枠は変わらず、黄金の方程式の下に組み立てられています。
バーチャルコンソールなどで過去のタイトルを遊んでみて、共通する部分、違う部分を噛みしめてみるのも面白いかもしれません。
おまけ - 「キャラ」でなく「ユニット」と呼ばれるわけ
ファイアーエムブレムシリーズでは一貫して、マップ上の味方や敵に対し「ユニット」という呼称を用いています。
unitとは「単位、一個、一団」などを意味する単語であり、「音楽ユニット」などの使われ方が一般的ですね。
この呼び方は、たとえばマップ上に12人の味方ユニットがいた時「軍なのに味方が12人しかいないのか?」という疑問に答えるものになっています。
「マルス」というユニットがいたとすれば、「マルスを中心とする一団」を便宜的にマルス一人に代表させている、という意味合いがあります。
この表現の便利な点は、ストーリー上大軍が想定される戦場でも、一つのユニットの人数が大きくなるのだと考えれば辻褄が合う点であり、
一種のご都合主義ではありますが、ストーリーや世界観とゲーム性との調整上重要と思われる計らいが、用語に現れてきたという一例になっています。