レトロ音源を生伴奏で復刻 ABXYの「Friend List」

大型アップデートでやって来たニューフェイス

2015年8月6日、Splatoon発売以来初めての「大型アップデート」が実施され、バージョンが2.0.0となりました。

主な修正内容は下記の通りです。

  • デカライン高架下の「改修工事」終了ほか、一部ステージの大幅調整
  • ブキカテゴリ「スロッシャー」「スピナー」と、新規勝ちアニメ・負けアニメの追加
  • ガチマッチのウデマエS、S+の解禁(それまではA+が最高)
  • 40種類以上のギアを追加
  • ランク上限が20から50に
  • タッグマッチ、プライベートマッチの解禁

詳しい内容は下記のファミ通アーカイブで読むことが出来ます。

www.famitsu.com

クリスマス商戦等の時期に購入された方には、「ランクって20までしかなかったの!?」等々の驚きもあるかもしれませんね。

そして、ゲームを後ろから盛り上げる音楽表現の面でインパクトがあったのは、

それまでイカす音楽ユニット「Squid Squad」専売だったバトルBGMに、新顔である二つのバンドの楽曲が登場してきたことです。

一組は以前の記事でご紹介した「Hightide Era」。もう一組が、本記事で紹介する「ABXY」です。

若者の音楽としては異質、ゲーム音楽としては王道

SplatoonのバトルBGMは「ちょっと背伸びした若者が聴くような」音楽を目指して作られていることが、開発者インタビュー等で述べられていますが、

その観点から言うとABXYの楽曲はややSplatoonのメインの音楽性からは外れたところにあり、ある意味任天堂の本領発揮であるレトロなゲームサウンドをフィーチャーしています。

2015年8月4日のSplatoon公式Twitterでは、ボーカルの「イソギンチャク女子」を筆頭とするこのバンドの紹介をするとともに、

2つの収録曲のうち「Friend List」を初公開しています。

twitter.com

ABXYによる二つの楽曲「Friend List」と「Quick Start」は、いずれもWiiU本体の内蔵機能と結びついたネーミングです。

フレンドリストはオンラインで協力プレイや対戦プレイ、Miiを介したやり取りなどを行うフレンドを管理する本体内蔵ソフト。

クイックスタートはゲームパッドについている電源ボタンを押したときにスピーディに起動する画面で、最近遊んだソフトに素早くアクセスできる新機能のことです。

またABXYというバンド名ですが、Splatoonの操作デバイスであるWiiUゲームパッドの右手側にはA、B、X、Yの4つのボタンがあったことにプレイヤーならすぐ気が付くでしょう。

任天堂の据置きハードとしては4世代前であり古典にあたるスーパーファミコンのコントローラでは、4つの「カラフルな」ABXYボタンが初めて搭載された事より、

年季の入ったゲーマーにも訴えかける音楽性と、Splatoonのカラフルなイメージを併せ持ったイカしたバンド名になっています。

なお、作編曲は任天堂の藤井志帆氏が行っており、演奏者は以下の通りです。

演奏者 パート
ギター 高慶 "CO-K" 卓史
ドラム かどしゅんたろう

Friend Listの和声的特徴を調べてみた

ここからは、Friend Listの音楽性とその魅力について、わたしが調べた内容を書いていきます。

以前書いた記事以上に専門的な(かつ正確性が危なっかしい)内容が含まれますが、ご容赦くださいね。

Aメロの音階はごく限定的

www.youtube.com

Aメロではボーカル、シンセ、ギター、ベースが演奏していますが、使われる音階はごく限定的です。

一部のフレーズを除き、ボーカルとベースはほぼ4つの音階しか使いません。音名で言うと「E(ミ)」「F♯(ファ♯)」「A(ラ)」「B(シ)」の4つです。

この4つの音を乗せるスケールは4種類もあるので、これだけだとスケールすらよく分かりません。

ギターの音をよく聴くと、「E♭(ミ♭)」を弾いているので、Eを根音とするホ長調であると分かります。

サビに入る直前で転調しますが、転調後は全てのパートが全音上がっていますので、F♯(ファ♯)を根音とする嬰ヘ長調になります。

ニゾンを活用しているSplattack!のAメロなどもそうですが、SplatoonのBGMは全体的にコード進行のはっきりしないフレーズを持つものが多く、

ギターの音などをよく聴かないと進行が分からなかったり、解釈が必要になることがあります。

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上記の画像はメロディ、ベース、ギターの一部を表していますが、

Friend ListのAメロについては、「G→C9→F9→…」を基本とする進行となっています。

サビのコード進行が美しい!

サビに入ると打って変わって美しいコードが表れるのも、Splattack!と同じ特徴といえます。

多くのゲームファンが大好きな、原始的でノイジーな音源を使ったメロディに、このゲームの象徴であるイカのざらざらしたボーカルを絡め、

生のエレキギターとドラムによるぐいぐいと前に押し出すようなグルーヴで、脳髄を打つような快感が走ります。

(メロディの音源を何と呼べばいいかわかりませんでした…音源に詳しい方、コメントを頂けると幸いです。)

サビのはじめの4小節について、コード進行を調べてみました。

ベースとメロディだけ抜き出して、きわめて単純化して説明をしてみます。(実際はギターが入るのでもっと複雑な進行になります。)

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ここからはホ長調の移動ドでコードについて述べていますので、ご注意ください。

最初の2小節はベースがC→Gであり、いずれもコードはCです。

3小節目がちょっと特徴的で、ベースがB♭になっておりスケールから外れています。

これは移調しているためで、この小節はAを根音とするイ長調に乗り、コードは(移調前のスケールで)C7です。

4小節目はスケールが元に戻りベースはF、コードもFです。

Fから見るとC7はドミナント(属和音)なので、クラシックにおける美しいコード進行の代表格とされる「ドミナント・モーション」になっています。

この種のコード進行はレトロゲームでも多用されているので、ダブルで古典的な和音にグッと懐かしさを感じる訳ですね。

ギターも入れると、深みのある展開に

先述した説明はベースとメロディだけを見た場合の説明ですが、ギターはこのコード進行から外れたところを弾いていて、ギターを含めた進行はもっと複雑怪奇です。

11thコードやsus4などが入り混じっているため、ちょっとわたしの手に負えない感じでした…。

サビの直前のコードに注目

コード進行は「どこに行くか」だけでなく「どこから来るか」も重要ですが、

Friend Listではサビに突入する時に嬰ヘ長調からホ長調への転調が起こりますので、この時の進行は非常に重要です。

ところが、サビの直前の根音は「B♭」、転調後のホ長調の階名で言うと「G♭」になっていて、その直後にくるCのコードとあまり繋がりが良さそうに見えません。

にも関わらず、Friend Listのサビの頭には独特の絶頂感があり、コード進行の観点からも美しい形になっていることが推測されます。

そこで、もう一度楽譜を作って考えてみることにしました。

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ポイントは、サビの直前の小節で、ギターが「E♭」、転調後のホ長調で言う「B」を鳴らし続けていることです。

Bは属七のG7の構成音です。実は、サビに入る時に上昇してくるシンセの「ぶりぶり」した音、あの音はホ長調上のG7のコードになっていて、

下記の楽譜において赤丸で示されたところを楽曲に合わせて(一瞬だけ)弾いてみると、非常に美しく調和します。

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それによってごく一瞬だけG7のコードが表れ、サビの入りがドミナント・モーション(に近い形)になっているのでしょう。

それまでのコード感のうすい曲の展開から、突然美しい進行が表れるので聴者は面食らい、

活き活きとしたシンセのフレーズに後押しするギター、ざらざらした質感のイカのコーラスになお酔ってしまうのではないでしょうか。

ゲームミュージックは和声に支えられる

Friend Listのようなレトロゲーム的なエッセンスのある楽曲にせよ、実際に古い曲であるにせよ、

かなり多くのゲームミュージックが美しい和声で支えられているということを、調べてみると実感します。

「ピコピコしてればゲーム音楽的」というのは結構雑な話のようで、

美しさ、懐かしさを感じるようなフレーズの多くにはちゃんと下敷きになる理論が存在するようです。

おことわり

(この記事で使用した楽譜は楽曲の特徴を説明するために引用するものであり、一切の転載・利用を禁じます。 また、権利者の申し立てがあり次第、画像の削除を行います。)

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