ゲームにおけるテキストの役割 かつては「華」、今は「パセリ」
ゲームにおいて、「ことば」は本質ではない
数ある芸術やメディアの中で、ことばを抜きに進行するものは少ないです。
簡単に、分類してみました。
メディア | 言葉の役割 |
---|---|
小説、詩、俳句 | なくてはならない |
映画、漫画、演劇、歌 | ストーリー・情報・感情を伝える |
音楽、絵、ゲーム | なくても成立する |
もちろん、便宜的に分類しただけのものです。
ゲームの中でも、サウンドノベルや、ミステリーといったジャンルは、ことば抜きでは成立しません。
しかし、アクション、パズル、レースといったジャンルには、突き詰めると不要でしょう。
(無論、パズルの中にも「もじぴったん」のような例がありますが。)
しかし昨今、テキストの登場しないゲームというのはなかなかありません。
おなじみ「PRESS START BUTTON」のようなUIを除いても、 文字で情報を伝えないというゲームは珍しくなっています。
一体テキストは、どのようにゲームに作用しているのでしょう。
事例を引きながら、考察してみましょう。
イトル・デューの伝説 - 冒険のヒントを与える
つい先日、WiiUのニンテンドーeショップから、 レイニーフロッグ製作の「イトル・デューの伝説」をダウンロードして遊んでみたところ、 テキストが上手に使われていました。 (本記事制作の直接のモチベーションになりました)
これは俯瞰の視点からみた2Dアドベンチャーゲームで、 棒切れをもった主人公を操り、流れ着いた島から脱出する方法を探すゲームです。
スイッチやたいまつを使った謎解きに遭遇するたび、ヒントをくれる「看板」がさりげなく立っています。
近づけばフキダシがポンと出て、短いヒントを与えてくれる。いくつか良い所がありました。
- 読むためにボタンを押したり、キャラクターが拘束されることがないため、ストレスがない
- 読みたくなければスルーしてよい
- 内容が小粋
「爆弾とたいまつは火をつけてなんぼ」とか、そういう表現を巧みに使ってくるため、 ちょっとゲーマー心をくすぐられます。
スマブラ for 3DS / WiiU - スマちしきによるナレッジ提供
「スマブラ」最新作であるfor 3DS / WiiU には、「スマちしき」というコーナーがあります。
キャラクター・ステージ決定後のロード時間が5秒ほどあり、その間に豆知識を画面に映し出すというもの。
ワザの意外な使い方や、ステージに登場するやくものの性質など、ちょっとニッチな知識を教えてくれます。
スマブラは一般の格闘ゲーム等と比べ、個々のキャラの研究がおろそかになりがち。いくつか理由があります。
- ユーザーのライトさ
- メインが4人対戦という、研究対象の絞りにくさ
- ボコボコにされながらも楽しめる
「いかにして勝つか」ということが、楽しむ上でクリティカルではないゲームなのです。
何が起こっているのか、ゲームの文法が分からなくても、とりあえず遊べてしまう。
そんな中で、「スマちしき」のような形で、ちょっとずつ受動的に学べるのは嬉しいことです。
スーパーマリオブラザーズ - ストーリーのピークを演出する
「THANK YOU MARIO! BUT OUR PRINCESS IS IN ANOTHER CASTLE!」
このテキストは、もっとも有名なゲームテキストであると言ってよいのではないでしょうか。
全32ステージからなるスーパーマリオブラザーズは、1ワールド4面。
各ワールドの最終ステージは、クッパが待ち受ける「お城」のステージになっています。
クッパを倒したマリオを、奥の部屋にいるピーチ姫…ではなくキノピオが出迎える。
そこで「ピーチ姫は他の城にいるよ」ということを告げられ、マリオはガッカリ。クッパも偽物なのでした。
ステージとステージの合間、ワールドとワールドの合間など、 ゲームのひと段落ついたところでテキストを読ませるのは、レトロなゲームによく見られる手法です。
もちろん、「そこでしかテキスト出力の余裕がない」という技術的な事情もあるでしょうが、 基本的にことば抜きで進行するゲーム中に現れるテキストは、特別感があって嬉しいものです。
星のカービィ 夢の泉の物語 - 冒険の真相を伝える
「夢の泉」は星のカービィシリーズの第2弾、ファミコン末期のソフトです。
デデデ大王が夢の泉のスターロッドをわが物にし、夢を見られなくなったプププランドの仲間たちを助けるため、 カービィが立ち上がるというストーリーが説明書に書かれています。
基本的にテキストはなく進行していきますが、 ストーリーの最後、デデデ大王撃破後のショートムービーで、 最後のステージ「ファウンテン オブ ドリーム」に向かうカービィとデデデ大王のムービー、 そして事のあらましを語る短いテキストが流れる。
事実が180度転換するカタルシスに、衝撃を受けたことを覚えています。
基本的にことば抜きで進行するゲームで、最後にのみ語られるストーリーには、 特別な力があるのではないでしょうか。
テキストはシステムに接近し、融合しつつある
たった4つの事例から仮説を導くのは些か無理もありますが、結論。
多くのゲームジャンルにおいてテキストが添え物であることは、今も昔も変わりません。
しかし、その位置づけは変わり、「システムに接近した…」 つまりゲームを遊んでいる最中のユーザーに、テキストをシームレスに提供するゲームが増えたように思います。
一人用モードで敵地に乗り込み、攻略している最中、 司令役からの交信をリアルタイムに伝える「新・光神話パルテナの鏡」や「Splatoon」などの事例もあります。
これらの事例においては、攻略と同時進行でストーリーやナレッジを伝えます。
その時、アクションに集中するユーザーの気を散らさないよう、メッセージウィンドウやボイスについて巧みに設計されています。
まとめに入りましょう。
かつては使いどころが限定され、ゲームのクライマックスを盛り上げたり、プレイヤーの目を引くとなる「華」だったテキスト。
技術進歩でタイミングを選ばずに出力でき、プレイヤーに対して情報提供を断続的に行うメディアになりました。
彩りを添え、食べてもおいしい(役に立つ)、「パセリ」のような存在に変わってきているのではないでしょうか。
アクションゲームで言えば、地形そのものがチュートリアルだった時代から、テキストでミッションを伝える形式が増加。
でもこの点については、「昔のほうが良かった」という人も少なくありません。
絵や音とは違った情報力のあるメディアですが、「主張しすぎない」ことが脇役としての務めといえるでしょう。
そのためには、テンポの良さ、さりげなさを追求していくことが重要です。
おまけ - ゲームテキストにおける、命令形の機能美
ふつうのコミュニケーションにおいては「命令形」はあまり好ましくなく、「行こう」「やろう」などの「未然形+う」のほうをよく使いますよね。
でも、ゲームのテキストにおいては、命令形の方が圧倒的に使われている。
ゲームはルールが敷かれて単純化された世界の出来事です。ゆえに、プレイヤーがやらねばならないことは超明確。
そのような世界では、ふだん命令形のことばに感じる窮屈さが劇的に緩和されるためです。
- Splatoonのナワバリバトル開始前に出てくる「たくさんナワバリを確保しろ!」
- スマブラのチュートリアルでおなじみ「ふっとばされてもあきらめるな!」
- ヨッシーアイランドの1-1ステージのテーマは「たまごをつくってなげろ」
- メイドインワリオより「ふれ!」「アピールしろ!」などのミニゲーム名
強いられても苦になるどころか、なんだか心地よさすら感じるところがフシギですね。
Webサービスで「エントリーフォームに記入しろ」とか書いてあったら、すぐにでも離脱してしまいそうなのにね…。
「言わずもがな」なことは、命令しても良いのかもしれません。